- 杉本さんってヒーローみたいな人はいないんですか。ライブ来たら絶対行こう、みたいな。
杉本 ちょっと前まではリチャード・カーク(キャバレーボルテール)が好きやったけどね。リチャード・カークとかモ・ボマとか。
- なんですかそれ。モ・ボマ?
杉本 ただのエスニックな民族音楽をやってる三人か四人のバンドみたいな感じやけど、エクストリームっていうオーストラリアのレーベルで、ジム・オルークとかムスリムガーゼなんかをリリースしてる、そこのアーティストで。なんか初期のデトロイトテクノのシンセをウワンて引っ張って弾くような感じのノリに、民族音楽みたいなパーカッションが静かに鳴ってるみたいな。で、雨音とかのSEが後ろで流れてたりとか、鳥の鳴き声がかぶってたりとかする音なんやけども、何回聴いても聴きたくなるから、きっといいんやろうなと思って。それはすごく好き。元々はずーっとデトロイトテクノ好きやったけども、デトロイトテクノっていうのを知るまでに、あれの元になったボディミュージックとかをずーっと聴いてたから、ああいうベースラインとリズムマシンの組み合わせっていうの、その骨の部分はずっと聴いてきてる。
- 上にのってる歌とかはあんまり興味なかったんですか?
杉本 なかった。その頃はね。歌モノよりもやっぱりインストが好きやし、インストの部分のやっぱりリズムのそのブレイクビーツじゃないけど、ブレイクビーツは生っぽい音でやってるっていうイメージあるけど、そこまでいくまでのそのリズムのプログラミングに興味があったから、そっちへだいぶ寄っていったかな、どんどんどんどん。
- 聴き始めっていつ頃なんですか?
杉本 なんの?
- そういうボディーとか、音楽を熱心に聴き始めた時期っていうのは。
杉本 元々は、やっぱり大学に入るまでは、そんな、こう、探しに行ってまで買うって言うのはなかったね。大学入ってから、曲作るのは大学入ってからがメインやけど、それまでは恥ずかしい話やけど、ソフトバレエの藤井麻輝が自分が全く知らないレコードを紹介してて、しかも並びからして手に入りにくそうなレーベル名とかばっかり並んでるから、そういうのに惹かれて。
- ソフトバレエが雑誌とかラジオとかでレコード挙げたりしてたんですか?
杉本 ほんと、それこそ、ワッツインとかああいうので。
- デペッシュモード聴け、ソフトセルとスパンダーバレエや、みたいなこといってたんですか?
杉本 いや、そんなメジャーじゃないねん。ヒルトとかSPKとかCOILとかキャバレーボルテール。キャバレーボルテールはメジャーやな。もうちょっとマイナーなSKINNY PUPPYとか並んでて、どれかまず聴こって。ニッツァー・エヴがあったからニッツァー・エヴ買って、そっからMUTEのレーベルを知って、みたいな感じやったと思う。ニッツァー・エヴは結構最初の頃に聴いて、で、やっぱりリズムはすごい最初の頃のなんか、「believe」やったかな、モノクロにタイポのジャケットで、すごいシンプルな曲作りで、こんなんあんねや、と結構衝撃を受けて、その後、レコードバーゲンかなんかに行って、友だちと、んで、「インダストリアルの暗い音楽じゃなくてこういう音色を使った音楽が聴きたいなあ」っていってるときに「クラブの音楽とかがそういう音色を使ってるのをやってるみたいやで」って聞いて、いっぱい買った中で、プラス8のリッチー・ホウティンのなんて言うやつやったか忘れたけど、リッチー・ホウティンの変名のやつでなんか。
- サイバーソニック?
杉本 そうそう、サイバーソニック。を見つけて、それがすごくよかったからそればっかり聞いてて、んで、それはすごくアッパーやったから、もっと違うのはないかな、って言ってるところで小泉今日子の「コイズミインモーション」(ラジオ番組)でジェラルドのハウスがかかったりしてて、アシッドハウスっていうのを知ったからそれを買いにいったりとか。
- アシッドハウス、そしたらリアルタイムの時期ですか。
杉本 一応89、90年あたりで聴いてた。まだ大学入ったぐらいやから、曲もまだ作ってないくらいでまず聴くっていう感じやったかな。で、やっぱりでもシンセ買ったりしたのは、ソフトバレエの音色にすごく惹かれたから、あれはそれまで聴いてきたポップスの中にない音やなぁと思ったからあれと同じ音がまず出したいなあと思って、ソフトバレエが使ってたシンセのシリーズの中で一番ランクの低い手の届きやすいシンセのYAMAHAのSY55てやつ。
- SY55をソフトバレエは使ってたんですか?
杉本 使ってない。
- SY99使ってたんでしたっけ。
杉本 うん。や、SY77とSY99やったと思うけど、SY77も高かったからSY55しか買えへんし、まあ、とりあえず同じシリーズやったらどれか一つくらい同じ音はいってるんちゃうかなぁって。で、まあその時はシンセの機能はあんまり意識してなくって、こう音色がどんどん変えれたりできるっていうよりも、プリセット音でも十分いけてるはずやと。で買ったんやけど。
- それ何年くらいですか。
杉本 大学入った年やから、91年くらいやと思う。
- それからずっとそのシンセ一台で。
杉本 そう、今まさにそのシンセ一台しか使ってない。リズムマシンもかんでないから。
- 完全に原点回帰。
杉本 そう。でも同じ楽器を使ってやるっていうのは、やっぱりなんか、たとえばギターとかピアノとかコルネットとかの楽器をテクニックでどんどんこう、一つの楽器でいろんな音楽を作っていくのと同じ感覚で、一個のシンセもギターとかと同じで、一台あればそっから何でもだしていけるんとちゃうかなと思うから、一回試せばいいんちゃうかなという。
- それはコンセプチュアルなものなんですね。
杉本 一応、最近そういうふうにも思うようになったし、音色自体も最初はあんまり他の人とそんなに変われへんと思ってたけど、ここまで来たらこの音はやっぱり、確かに前から高音がきついとかなんか音がとがってるとかいろいろ言われて、あまりええ録音の音じゃないとかも言われてきたけど、逆に愛着出てきた。
 
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