2008年10月24日 12:02

YouTubeで聴けるブリープ・テクノ名曲10選

ヤング・パーソンズ・ガイド・トゥ・ブリープ・テクノ・ミュージック。

ブリープ・テクノ、ブリープ・ハウス、ノーザン・テクノ、ヨークシャー・ブリープ、などなど呼び名は定まりませんが、1989年から1991年にかけてイギリスの北部、シェフィールドのレコードレーベルWarp recordsを震源地に、小さいながらもダンスミュージックのムーブメントがあったことは確実です。

その特徴は、それまでのハウスに無かったような重低音のシンセベースと剥き出しの電子音。その電子音は「ちゅんちゅん」「ビヨビヨ」というようなレゾナンスのかかったアシッド的な音では無く、「ビコビコ」「ビキビキ」というようなフィルター全開のスクエア波のシンセ音が中心。この音でアメリカのシカゴ・ハウスやデトロイト・テクノからの影響をストレートにあらわしたダンスミュージックをやっていたのがブリープ・テクノ、と(自分は)解釈しています。

また同時期にイギリスではハードコア・テクノ、ブレイクビーツ・テクノ、ジャングル、バレアリック・ハウスなどの様々な形態のダンスミュージックが萌芽していたこともあり、それらが互いに複雑に影響し合って、イギリス北部ではブリープ・テクノがそのスタイルを作り上げていったわけです。

それでは名曲10選をどうぞ。

■ Unique 3 - Theme (Original Chill mix)

全てはここから始まった、らしいです。1989年作品。ブリープ・テクノのシーンを牽引したWarp Recordsの創始メンバーへのインタビューでは、レーベル設立のきっかけとして必ずこの曲に触れられます(→ HMV インタビュー)。Unique 3の他の曲はラップやボーカルが乗ったエレクトロで、ここまでブリープしていません。デトロイト・テクノにとってのCybotron「Clear」(→ YouTube)みたいな存在の曲、という表現は近からず遠からずか。

■ Forgemasters - Track with No Name

Warp Records創始者の一人Robert Gordonのユニット。1989年作品。彼のレコード店Fon record storeのスタッフがスタートさせたのがWarp Records。Robert Gordonは元祖ダンスロックバンドPop Will Eat Itselfの1stアルバム「Box Frenzy」のプロデューサーで、他にもAge Of Chance「Kiss」Krush「House Arrest」Yazz「Wanted」なんかも手掛けています。基本はエンジニアの人のようで、シェフィールドでレコーディングスタジオ「Fon Studios」を運営(現在も)。

またWarp recordsのジャケットと言えばDesigners Republicですが、Warp Records以前に彼が運営していたレーベルFon Recordsの1986年のリリース作品のアートワークをすでにDesigners Republicが担当しています(→ discogs)。相当早い段階からRobert Gordonは彼らに目をつけていて、上に挙げた自分の関連作のアートワークに使い続けることで彼らを大きく成長させたといえるでしょう。Robert Gordon、調べれば調べるだけ話が出てくる興味深い人物です。Fonは「Fuck Off Nazis」の頭文字で、ユニット名「Forgemasters」はシェフィールドに実在の企業の名前です。

■ Nightmares on Wax - Dextrous

今では渋いインストヒップホップを手掛けているNightmares on Waxも、そのスタート地点はブリープ・テクノでした。1989年作品。とはいえ、この曲の入った1stアルバム(→ Amazon)は今のNightmares on Waxのような渋いテイストもちゃんとあって、意外に活動のブレは小さいことに驚きます。

■ Sweet Exorcist - Testone

シェフィールドを拠点に70年代から活動する伝説的ノイズ・インダストリアルバンドCabaret VoltaireのメンバーRichard H. Kirkが結成したユニット。1990年作品。Cabaret Voltaire本体もこの時期から急速にテクノ/ハウスに接近して、古いファンから総スカンを喰らったそうです。この曲のメインリフの電子音はYMO「コンピューター・ゲーム」からのサンプリング。

シェフィールドで電子音楽の大御所といえば、もう一組Human Leagueがいますが、彼らはあの音にも関わらずテクノシーンとほとんど繋がりを持っていないというのも面白いです。

■ Tricky Disco - Tricky Disco

Technohead、GTO、John + Julieなどの名義でハードコア・テクノやレイブのシーンで活動。この曲の作曲クレジットには上のSweet Exorcistの二人の名前が。1990年作品。

■ Midi Rain - The Crack Train

J. Saul Kaneプロデュース。1990年作品。J. Saul KaneはDC RecordingsのオーナーでDepth Charge、Octagon Manとして活動中。J. Saul Kaneも調べれば調べるだけ面白い人物ですが、またの機会に。

■ Nexus 21 - Self Hypnosis

後にハードコア・テクノユニットAltern 8として活躍(最近再始動)。Altern 8と比べると、こちらの名義はデトロイト・テクノに影響された真面目なダンスミュージックをやっています。本来はAltern 8名義がエイリアスでこっちが本体だったはずですが、いつの間にか逆転しました。アメリカのNetwork Recordsからのリリース。1990年作品。

■ Ital Rockers - Itals Anthem

詳細不明。Bassicというレーベルからのリリース。1990年作品。

■ Rhythmatic - Take Me Back

Network Recordsからのリリース。1990年作品。Rhythmaticは91年頃に出たArt Of NoiseやYMOのリミックス盤に参加しています。どちらの盤も古いファンからの評判がすこぶる悪いことで有名ですが、今聴くと一周回って聴ける可能性もあるので是非挑戦を。

■ LFO - We Are Back (1990)

コンピューターボイスの言葉は"There are many imitators, but we are the true creators. We're back ... Low Frequency Oscillation"。「偽物だらけのこんな世の中に本物が戻ってきましたよ」。ブリープ・テクノの王者にだけ許される不遜な態度です。1990年作品。この曲がセカンドシングルで、デビュー曲は以前のエントリー「YouTubeで聴けるテクノ名曲10選 - 次点」で取り上げた「LFO」(→ YouTube)。このデビュー曲の大ヒットがブリープ・テクノのブームの起爆剤となり、多くの「imitator」を生み出しました。

ブリープ・テクノのブームは1991年頃を境に下り坂になり、他のダンスミュージックのブームと同様、あっという間に時代遅れになってフェードアウトしていきます。

時同じくしてRobert GordonがWarp recordsの運営から抜け、残ったメンバーは新たに「Artificial Intelligence」のコンセプトを打ち出してレーベルの方向性を左脳的な電子音楽の方向へと舵をきります。以降20年近くいろいろあって、Warp recordsは現在ではイギリスを代表するインディレーベルの1つに成長、というストーリーです。

今となってはブリープ・テクノが深く省みられる機会はそう多くありませんが、ブリープ・テクノの重低音ベースは後のドラムンベースに、電子音はIDM/エレクトロニカへと少なからず影響を与え、もっと広い意味でのテクノの中には完全に溶け込んでいるのではないでしょうか。だからこそ再評価が難しい。最近のエレクトロ・ハウスの一部、Alter Ego(→ YouTube)やRex The Dog(→ YouTube)あたりを「ブリープ・ハウス」と呼ぶ向きも有るそうで、脈々とブリープのDNAが現代に受け継がれていると感じます。

1枚聴くなら、やはりLFO「Frequencies」。

Review : 2008年10月24日 12:02

ブックマーク

Yahoo!ブックマークGoogleBuzzurlニフティクリップlivedorr clipdel.icio.usはてなブックマークYouTubeで聴けるブリープ・テクノ名曲10選のはてなブックマーク数

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL :
http://www.spotlight-jp.com/matsutake/mt/mt-tb.cgi/237