2009年01月31日 22:52

宇宙の戦士 - ロバート・A・ハインライン

宇宙の戦士- ロバート・A・ハインラインテレビが故障して読書がはかどるはかどる。

[書籍/レビュー]
タイトル : 宇宙の戦士 Starship Troopers
著者 : ロバート・A・ハインライン Robert Anson Heinlein
出版社 : 早川書房
出版年 : 1959年

アメリカで出版されたのは1959年。日本では「機動戦士ガンダム」の元ネタとして語られることの多い、というより、その肩書きのみが一人歩きしている感のあるこの「宇宙の戦士」。モビルスーツ(強化服:パワードスーツ)というアイディアがこの作品から来ているという意味での元ネタ扱いなんでしょうが、実際読んでみると、モビルスーツの登場する部分は1割にも満たず、ましてやモビルスーツが宇宙の戦場でビームライフルを片手に活躍するシーンなんてのは皆無です。

それでは何が書かれているかといえば、一人の青年が立派な軍人になるまでの教育と訓練の過程であって、戦争、社会、師弟、権利、責任なんていうことがみっちり綴られているわけです。

「暴力は歴史上、他の何にもまして、より多くの事件を解決している」「戦争の目的とは、政府の決定したことを力によって支持することだ」「最も崇高な運命は愛する祖国と戦争の荒廃とのあいだに、その身命を投げ出すことなのだ」。教師や軍曹の発する軍国主義的な言葉の数々が、主人公ジョニー・リコを通して読み手に投げかけられます。未来社会を舞台にした一級品のSF娯楽小説のていを取りながら(モビルスーツが活躍しなくても十分面白い)、当時のアメリカ民主主義の中で暮らす人々の規範の乱れを痛烈に批判し、この本を読む若者、未来のアメリカ市民を教育しようとしている、つまりこれはアメリカ再興のための教科書・思想書・哲学書なのです。

訳者後記が面白くて、「宇宙の戦士」が日本で翻訳出版された当時の1967年頃に日本のSF評論家やSFファンの間で起こった「宇宙の戦士」の右傾的、ファシズム的内容に対する議論や反響がまとめられていて、これがもう温度差というか感覚の違いというか、ひいてしまうくらいの熱さです。時は学生運動全盛期。単に政治を語ることが格好良いとされていた時代だからなのか、地球を脅やかすクモ型エイリアン社会の向こうに共産主義が透けて見えるのがマズかったのか。「機動歩兵のパワードスーツが格好いい!」なんていう気の抜けた意見はゼロです。

「戦後」真っ只中かつベトナム戦争真っ只中だったという時代の空気の中で、当時の日本人の戦争・軍隊への拒否感やファシズムアレルギーの強さに、当然の事とはいえ、あらためて気付かされます。ですが、ファシズム的な内容を描いてるからって、フィクション相手にそこまで拒否感を示さなくても、と感じてしまう2009年日本の自分もいます。言葉の表面をなぞるのではなく、ここに記された哲学を過去現在未来に照らし合わせると、その時代ごとに違った示唆を受けとることができるような、時代性が強すぎるがゆえ、一周回ってタイムレスな魅力を放つに至った作品ではないでしょうか。

「宇宙の戦士」への現在の評価・議論はAmazonに20件以上のレビューが掲載されているので、1967年の議論と比較してみるのも面白いです(→Link)。

Review : 2009年01月31日 22:52

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