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2009年02月21日 14:55
スペシャリストの帽子 - ケリー・リンク
米ファンタジイ界最注目の女性作家の短編集。
テレビが壊れてた月の電気代、前の月より1,000円も低かった!
■ スペシャリストの帽子(ハヤカワ・オンライン)
十歳の双子の姉妹が、母親を亡くして初めて迎える夏のこと。屋根裏部屋で、二人は帽子でない帽子〈スペシャリストの帽子〉を手に入れた……世界幻想文学大賞受賞の表題作ほか、既婚者としか関係を持たないルイーズと、チェリストとしか関係を持たないルイーズ・・・二人のルイーズを描くネビュラ賞受賞の「ルイーズのゴースト」など、全11篇。
屋根裏部屋で不思議な帽子をみつける双子の姉妹、なんていうこれから児童文学が始まりそうな粗筋ですが、もっと奇妙な世界。ファンタジーといっても剣と魔法の冒険ではなく、不思議少女の妄想ワールド、語り口のユーモラスな幻想文学という趣です。
あとがきによると、こういう「子供の妄想をそのまま膨らませたようにみえる非リアリズム小説」は最近のアメリカの若い女性作家の作風に顕著な傾向なんだとか。比較にあがっている名前はエイミー・ベンダー、ジュディ・バドニッツ、ネリー・ライフラー。
読んでいてよくわからない話がほとんどで、わかるわからないというより「体験」するような感覚。詩集を読んでいるんだ、くらいの受け入れ体制で向かえばすんなり入ってくるかも。
物語にスムーズに導入しても、途中から「ん?」「どういうこと?」と軸がズレはじめ、森でケモノ道に踏み込んで遭難してしまったような、いつもと違う降り口で駅を出て迷子になってしまうような感覚に陥ります。でも、そのままシュールな夢の中に放り出されるのではなくて、ラストには絶景が待っていたり、合ってるような合ってないような辻褄が用意されていたりして、最後の行を読む時には「え、これで終わり?…よくわからん…でも…まぁ面白かったな」と感じさせるような不思議な説得力があります。
大半の話が「死」「喪失」を描いているように思いますが、表現がユーモラスなこともあってか、不思議と重さが無いのも面白いです。名前を思い出せない妻に死者が手紙を書く話「カーネーション、リリー、リリー、ローズ」、体の一部を欠損した不思議な家族を持つ女性と交際するホラー「黒犬の背に水」、「雪の女王」を下敷き(パロディ)にした冒険譚「雪の女王と旅して」、両親と離れて暮らす少女を観察する話「人間消滅」などが特に気に入りました。
■ 関連サイト
Review : 2009年02月21日 14:55
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