2009年03月11日 23:05

1976年のアントニオ猪木 - 柳澤 健

1976年のアントニオ猪木 - 柳澤 健猪木を軸に書かれた日本のプロレス史。

[書籍/レビュー]
タイトル : 1976年のアントニオ猪木
著者 : 柳澤 健
出版社 : 文藝春秋
出版年 : 2007/03

2月に放送されたテレビ朝日開局50周年記念特別番組 「伝説のスポーツ名勝負」で、いわゆる「世紀の大凡戦」アントニオ猪木対モハメッド・アリ戦が放送されました。ダイジェスト的な映像は見たことがあったのですが、全ラウンドを見たのは初めてで、しかもその試合までの緊迫した舞台裏、裏ルールの存在など、プロレスの知識の無い自分にはどれもこれも初めて知ることばかり。とても面白いものでした。

見終わった後にその放送について触れたブログをいくつか読みましたが、そのどれもが「1976年のアントニオ猪木」を引いて語られており、いわく、あの放送は及第点だが猪木サイドしか捉えていないと。

▲ inoki vs ali

「1976年のアントニオ猪木」は1976年に猪木が戦った4つの異種格闘技線「ウィリアム・ルスカ戦」「モハメッド・アリ戦」「パク・ソンナン戦」「アクラム・ペールワン戦」を中心に書かれていますが、1976年の出来事に限らず、力道山の地点から日本のプロレスの歴史、ひいてはプロレスとは何かについて、余計なプロレス哲学やファンタジー抜きで書かれていて(現実がファンタジーを超えている)、プロレスを全く知らなくても問題なく楽しめる内容です。

猪木がアリと戦った理由が力道山・馬場・アメリカとの関係から紐解かれ、猪木とリアル・ファイトを戦った4人それぞれの個人的事情、「裏ルールなど無かった」という猪木アリ戦の真実、そして現在の総合格闘技(K-1やUFC)に猪木がどう繋がってどう影響を与えているのか(与えていないのか)が語られます。

1976年以降の猪木、つまりIWGP、タイガーマスク、アントン・ハイセルの失敗、猪木の参議院出馬、そして新日本プロレスの没落について書かれた「第7章・プロレスの時代の終わり」が特に面白いです。坂口征二「人間不信」、平壌「平和の祭典」、佐川急便「都知事選出馬辞退」などなど、どのエピソードも最低すぎます。メディア経由で何となく見ているだけでは見えてこない、幻想と虚像の向こうの生々しいリアルなアントニオ猪木像。作中で引用されたターザン山本の言葉がこれをうまく表現しています。「猪木のことは疑いながらも信じてしまう。スイッチが変わってしまう。雰囲気や色気に負けてしまう」。

プロレスを見てきた人はこの本に対して異論・反論があるでしょうし、違った視点からの読み方になるだろうと思います。プロレスを知らない自分は、猪木を軸に書かれた日本プロレス史の教科書(副読本?)として面白く読みました。

この文章を書くためにネットを調べていて今知ったのですが、「1976年のアントニオ猪木」に大幅加筆&猪木本人へのインタビューを追加した「完本 1976年のアントニオ猪木」という文庫本がちょうど昨日(2009/3/10)発売されています。なんという間の悪さ。

Review : 2009年03月11日 23:05

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