2009年04月29日 11:53

結局のところThe TussはAphex Twinなのか - まとめ

Aphex Twin新作情報記念。わたくしの調査結果と結論を提示します。

2007年にアルバム『Rushup Edge』とEP『Confederation Trough』をリリースしたRephlexレコードの新人アーティストThe Tuss。

■ @TOWER.JP - The Tuss - Rushup Edge

myspace 経由で NINJA TUNE、XL Recordings 他数々のレーベルからのオファーを全て断り、争奪戦の末に見事 Rephlex が契約し、この度正式デビューが決定した2人組=The Tuss! 音の方はというとテクノ、モダン・ファンク、ガバ、アンビエント、クラシックをミックスした激刺激的完全ブレイン・ダンス・スタイル!!

▲ The Tuss - Rushup I Bank 12

The TussはBrian TregaksinとPatrick Tregaskinの2人組という説もあればBrian Tregaksin1人だけという説もあります。ですが、大方の推測するところは、これらの人物は実在しておらず、The TussはRephlex周辺人物の変名プロジェクトだろう、という感じではないでしょうか(この推測をRephlexは公式に否定していますが)。

Rephlexで謎の新人とくれば、最有力被疑者はもちろんAphex TwinことRichard D James(以下RDJと略)になります。Aphex Twinのディープなファンの間では、The Tuss=RDJ説はすでに既成事実となっていますが、なぜそうなのか、はっきりした証拠を提示したものはほとんどなく、日本語の情報は感覚的な推測ばかり。そこで、これに関して自分がこれまでに集めた情報をまとめて、それぞれを検証してみました。

英新聞The Guardianが変名説を主張

イギリスの新聞「The Guardian」が「Brian Tregaksinは実在しない、The TussはRDJの新たな変名だ」と、いくつかの証拠をあげて主張しています。この記事がわかりやすいので、考察の軸とします。

■ Dancing in the dark - Aphex Twin's Richard D James is up to his old tricks, says Louis Pattison(The Guardian)

But there are a few telltale signs. The Tuss lands on Rephlex, the so-called "Braindance" label co-founded by Aphex back in 1991. Circumstantial? Closer inspection suggests the Tuss's music is published by Chrysalis - not the sort of company who have their finger on the pulse of the Cornish techno underground, but the publishers for a certain Richard D James. One Tuss track, Devon, meanwhile, has been traced back to a live Aphex set in 2005. And in a degree of attention to detail mostly conducted behind closed doors before the advent of the internet, some keen-eared fans have identified the farty squelch of one particular synthesiser as the GX1 - a gigantic modular synthesiser so rare only a few exist. And you know who has one, right? Right. Seriously, it's like The Da Vinci Code for techno nutters.

証拠その1… Chrysalisがpublisher(出版社)である

イギリスでの出版社・レーベル・アーティストの関係がどのような形になっているのか、細かいところはわかりません。通常は自らが出版社としてリリースしているRephlexが、RDJ関連のリリースだけはイギリスの大手出版社Chrysalisを通してリリースしているそうです。そしてこのThe TussのリリースはChrysalisを通っています。Rephlexの他の有名どころのリリースはどうかな、と手元のLuke Vibertのリリースをいくつか調べると、Chrysalisなどの出版社の名前はジャケットに見当たらず、P&C Rephlexの記載だけがあります。

証拠その2… 2005年のAphex TwinのライブセットにThe Tussの曲を発見

該当する2005年のライブの情報は発見できませんでした。でも、その代わりに2008年のAphex Twinのライブで「Rushup I Bank 12」がプレイされている動画を発見しました。

▲ Aphex Twin @ Oxegen [4/12]

最近はライブといいつつ自分の曲を多くかける程度のDJらしきことをしていることが多かったので、これもライブと言いつつ本人はDJプレイ感覚という可能性を捨てきれません。というのも、この時のプレイリストにはRDJの曲以外にThe Tussの「Rushup I Bank 12」「Death Fuck」だけでなく、Squarepusherの曲「Talk About You and Me」が混ざっているのです(→Link)。「2005年のAphex Twinのライブセット」というのも、こういう形なのではないかと推測します。これは証拠としては弱い。

証拠その3… シンセサイザー GX1の音が使われている

「GX1 Solo」という曲があるくらいなので(→YouTube)、The TussがGX1を所有しているか、強い思い入れがあることは間違いないでしょう(The TussはMySpace内のブログで所有を否定)。このGX1というのは、1975年にヤマハが発表した『最高峰のエレクトーン』で、エレクトーンとはいっても中身はアナログシンセサイザーが7台相当入っているようなパワフルなもの。Stevie Wonderが『Songs in the Key of Life』のレコーディングに使っています。当時のお値段で一台700万円以上、一説には100台以下しか製造されず、日本国外には13台しか存在が確認されていないそうです。

Yamaha GX1

この伝説のシンセサイザーYamaha GX1のWikipediaの項目(→Link)に、RDJの名前が所有者として挙げられています。GX1所有者としてWikipediaに挙げられているのは以下の名前です。

  • Keith Emerson of ELP
  • John Paul Jones of Led Zeppelin
  • Stevie Wonder
  • Benny Andersson of ABBA
  • Hans Zimmer
  • Rick van der Linden of Ekseption
  • Rick Wright of Pink Floyd
  • Richard D James

残念ながらWikipediaにはRDJが所有している証拠や出典は無し。「GX1 Solo」を聴くだけでは、これが本当にGX-1の音なのかどうか、耳で判別するのは自分には不可能でした。

さらに検索に検索を重ね、証拠らしきものを発見しました。

■ Aphex Twin's GX-1 on Vemia(xltronic messageboard)

don't think this is aphex twin's gx1..aphex twin talked on the analogue heaven mailing list (underthe name panflet) about having modified his gx1.pretty sure this would've been mentioned in de descriptionat vemia.besides that, don't think he'll ever get rid of it andespecially not since he's making music with it right now.

「VemiaというオークションサイトにGX-1が出品されているが、これを出品しているのはAphex Twinではないか」という議論がなされていて、議論の結論は、多分違うだろうとなっています。重要なポイントは上の投稿。RDJは「analogue heaven mailing list」というアナログ電子楽器系のメーリングリストに「panflet」というIDで投稿をしていたことがあり、そこでGX-1について言及している、という内容です。

そのメーリングリスト「analogue heaven mailing list」のアーカイブ(→Link)が検索できるようになっているので「panflet」で検索すると、以下のような投稿を発見しました。

■ Yamaha GX-1 -secret features(Analogue Heaven)

Being lucky enough to have one I have to tell you that you are wrong twice,there is a sequencer on the gx1!! I haven't read about it anywhereelse so now you know .(中略)Anyone want to come and customise mine?

GX-1はシーケンサーが無いから操作が大変という投稿に、「panflet」が「俺持ってるから知ってるんだけどGX-1にはシーケンサーがついてるよ」というレスをしています。上の引用は一部分だけで、元はけっこう長めの文章で、「panflet」はGX-1の魅力について雄弁に語っています。

他にも、普段は文末に「Eric」を署名していたpanfletが、うっかり別の名前を署名している投稿をみつけました。

■ various analog for sale (Analogue Heaven)

Hi,I`ll buy the syndrum I can pay straight away with paypal if not can do a bank transfer Thank you, Richard

いろいろシンセ売ります、という投稿に、syndrum買いますよ、というレス。署名が「Richard」になっています。RDJ=panflet説は公然の秘密だったようで、いくつかのサイトで言及したテキストを見つけました。panfletもずいぶんフランクな感じでアナログシンセや音楽について投稿しています。2006年で彼の投稿は途切れていて、現在このアドレスも使われていないようです。世界に数台しか無い超高級シンセを所有していて「B12」を知っているイギリス人。確かにGX-1でRDJとThe Tussが繋がります。

The TussはMySpaceで記事を否定

以上の3点を証拠としてあげている「The Guardian」の記事に対して、The TussはMySpace内のブログで「完全な間違い」であるとして記事の取り下げを要求しています。

■ the Guardian writes about the Tuss(Record Label Records さんのMySpaceブログ)

Louis Pattison is a twat, i demand he issues a retraction immediatly. Totally false. They have no respect for me.

ブログには他にもQ&A形式で質問に答えている投稿があって、自分はRichard Jamesではない、Cylobではない、Ceephaxではない、と片っ端から否定していますが、明確な証拠は提示されていません。Rephlex関係のアーティストは「あんたがThe Tussだろ」としょっちゅう言われてウンザリしている模様です。

このThe TussのMySpaceが混乱を極めた状態でして、類似アカウントが10前後もあって、それぞれのページでThe Tussっぽい未発表曲を聴くことが出来ます。でも本当にThe Tussがやっているのか、誰か別人の作ったフェイクなのか、そもそもどれが公式なのかすらわかりません。以下は関連ありそうなアカウントのリスト。おすすめは気の抜けた歌モノが6曲も聴ける「tusticles」です。

「The Tush」のアカウントからは大量の未発表曲がダウンロードできます(→Link)。RDJっぽい雰囲気のある曲もあるにはありますが、大多数は制作途中のアイデアメモのような内容で、謎のノイズコラージュも多数。また「The Tsss」のアカウントにいたってはPet Shop Boysの曲のカラオケや映画「ビバリーヒルズコップ」のテーマ曲、映画「フレッチ」のテーマ曲などがそのまんま配信されています。自分でやってるのか他人がやっているのかは不明ながらも、この状態を楽しんでわざと混乱させていると取るのが正しいでしょう。ブログの内容の信憑性も推して知るべしといったところ。

さて、長々と考察してきましたが、海外のフォーラムに決定的な証拠が提示されているのを見つけました。

証拠その4… BMIの登録名が「JAMES RICHARD DAVID」

アメリカの著作権管理団体BMI(Broadcast Music Incorporated)にThe Tuss関連の楽曲が「JAMES RICHARD DAVID」の名前で登録されているのが発見されました(→Link)。Aphex Twinなど他のRDJの曲も同様に「JAMES RICHARD DAVID」の名前で登録されています。これは決定的ではないでしょうか。「ダラダラと書かずにこれだけ書いとけば十分だろ」といわれれば、返す言葉もありません。

結論

The TussにRDJが関わっていることは100%間違いないと断言します。The Tuss=Richard D Jamesである可能性は極めて高いと言えるでしょう。イコールでない可能性としては、誰かとのユニットである線が残ります。これは判断材料がありませんでした。

仮にBrian Tregaksinというアーティストが実在したとすると、何社もの大手レコード会社を蹴ってRephlexと契約、たいしたプロモーションも無いままに作品はリリースされ、表には全く姿をあらわさず、あげく他人に著作権を譲渡して、すっかりなりを潜めてしまうなんて、ちょっと考えられません。金にも名誉にも人前に出ることにも関心の無い天才音楽家。それはそれで面白いですが、音を聴けば一発。ここまでの楽曲を作ってこの音で鳴らすことのできるアーティストが世界に何人いるのでしょうか。とはいえ、本人もRephlexも否定しているということを考慮した上で、すべてを「The Tuss」として楽しむのが大人のたしなみでしょう。

ちなみに「Tuss」とはコーンウォール地方で「勃起(erection)」を意味する方言だそうです。

追記:2012/3/1

The Tussの2作品、長らく日本の各CDショップでは在庫切れだったんですけど、HMVで再発盤?を入手可能になっているようなので、リンクを張っておきます(HMV: Rushup Edge / Confederation Trough)。

■ 関連サイト

Text : 2009年04月29日 11:53

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