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2009年07月29日 07:55
ザ・スタンド - スティーヴン・キング
キング初期の大作を読み終えました。
「スーパーフルー」「キャプテン・トリップス」などと呼ばれる謎のインフルエンザによって死に絶えた世界を舞台に、残された人々が展開する善と悪の戦い。
アメリカの新聞「USA Today」によると、2008年に行われた「アメリカ人の好きな本」のアンケート調査で、この「ザ・スタンド」が第5位に選ばれたそうです。ちなみに1位は「聖書」(→Link)。
たまたま新型インフルエンザが日本に上陸しだした2009年3月ごろに読み始めたので、臨場感がすごかったです。現実世界の新型インフルエンザは今のところ弱毒性ですが、「ザ・スタンド」に登場するキャプテントリップスの方は、感染した翌日には緑のゲロを吐いて死んでしまうという超・強毒性です。奇跡的にインフルエンザに免疫があって生き残っても、インフルエンザ後の世界は軍隊の秩序も無くなって早々に国家も崩壊、まさに世紀末救世主伝説、終末世界。アメリカの人々は「フリーゾーン」と「ラスヴェガス」の二極に分かれて新たな国家を築き、両者は対立を深めます。
話の中では推測としてしか語られませんが、恐らく世界中で同様のことが起こり、日本でも生存者が小さな国家を築いていることでしょう。アメリカの人々はキリスト教的な啓示を受けることで善と悪の2極に別れましたが、日本だと誰がどういう啓示を出すのでしょうか。仏様vs八百万の神なのか、ぬらりひょんが妖怪軍団を率いるのか。想像は膨らみますが、この作品はアメリカを舞台にしたアメリカ人の話なので、彼らの一番好きな本「聖書」の知識やキリスト教への信仰があれば、さらに感じるものがあるのだろうな、と少しもったいなさを感じました。
熱心なキングの読者の皆さんなら重々ご承知の通り、彼の書く物語は作品ごとに異なった色合いを持っています。例の如くこの作品に関しても、怪獣や霊が出てきてどうこうという「ホラー」という言葉から思い浮かぶ典型的な話ではなく、馬の代わりにバイクと自転車を駆る、現代を舞台にしたファンタジー小説・冒険小説のような性格を強く感じました。舞台は1990年のアメリカ。初版の出版は1978年なので、SFと呼べる要素も有ると思います。
ファンタジーということでは、キング自身が公言しているとおり、ファンタジー小説の王様「指輪物語(ロード・オブ・ザ・リング)」の影響を感じる部分が随所にあります(話の中でも直接言及されます)。個性豊かな魅力的なキャラクターがアメリカ中から集まる構成に特にそれを感じました。ロックミュージシャン、犯罪者、女教師、破壊狂、レッドネック、妊婦、聾唖、セックスバカ、童貞デブ、知恵遅れ、社会学者、犬、などなど。特に「童貞デブ」キャラクターのハロルドのドロドロした人間性の中に、自分自身と重なるようなマヌケさが見え隠れして、彼がどのような行動をとろうとも嫌いになれません。彼の登場するパートと、完全な狂人「ゴミ箱男」の登場するパートは特に面白かったです。
それぞれの登場人物について彼らがインフルエンザで世界が崩壊する以前にどういう生活を送っていたのか、どういう問題を抱えていたのか、いかにして集ったのか、キングらしいクドいくらいの緻密な描写で描かれます。個々の話が執拗に描かれ、描かれ、描かれ、話の展開の遅さにイライラしはじめた頃合いに、フっと別の客観的な視点から現状を説明するような、話が大きく前進するボーナスステージのような章が差し込まれます。この構成のバランスが絶妙で、まったく読み飽きません。
文庫本にして5冊(しかもすべてが分厚い)、ハードカバーなら上下巻合計1500ページで二段組。ほかの本と並行して読んでいたとはいえ、読み終えるのに3ヶ月以上を費やしてしまいました。その長さに比例して世界への没入感はとても深いです。もっともっと長くこの世界に浸り続けていたい。読む時はアメリカの地図と登場人物の名前をメモする紙を用意することを強くおすすめします。
上の動画は1994年にテレビドラマ化されたときの予告編。自分はまだ見ていません。2008年にDVD化されましたが、同時にDVD化された「ランゴリアーズ」と同様に「CGがショボい」「セットがショボい」などの感想がきこえてきています。
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Review : 2009年07月29日 07:55
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