2009年07月10日 15:59

"一発屋"ヴァニラ・アイスと"悪党"シュグ・ナイトのこわい話

悪名高いDeath Row Records、その設立の裏に"Ice Ice Baby"あり。

一方は90年代半ばに勃発した西海岸vs東海岸のヒップホップ抗争の主役の一人、Death Row Recordsのボス、シュグ・ナイト(Suge Knight)、もう一方は元祖白人ラッパーとして"Ice Ice Baby"を700万枚売り上げた正真正銘の一発屋、ヴァニラ・アイス(Vanilla Ice)。

▲ Vanilla Ice - Ice Ice Baby (Live)

ヒップホップであることに辛うじて接点があるだけで、ほとんど共通項の無い両者だと思っていましたが、実は両者の間には因縁があって、デスロウレコードの設立に"Ice Ice Baby"が深く関係していることを知りました。

■ To The Extreme and Back (Rolling Stone)

■ Suge Knight(hiphop.sh)

■ Death Row Records(Wikipedia)

■ ヴァニラ・アイス(Wikipedia)

「Ice Ice Baby」の権利は力ずくでシュグ・ナイトに奪われたとも言われている。

上のサイトをはじめとして、いくつかのサイトに掲載された証言やレポートを総合すると、こういうストーリーです。

Mario ‘Chocolate’ Johnsonというラッパーが、ヴァニラ・アイスの大ヒットアルバム「To The Extreme」の、"Ice Ice Baby"を含む12曲中7曲の制作に手を貸したのに金をもらっていない、あれは俺の曲だ、とシュグ・ナイトに相談を持ちかけました(この訴えが正当なものかどうかは不明)。

Johnsonの旧知だったシュグ・ナイトはこの話を聞いて、ヴァニラ・アイスが食事をしていたレストランに数名のボディーガードとL.A. Raiders所属のフットボール選手を引き連れて乗り込みます。

death row records logo人気絶頂だったヴァニラ・アイスはボディーガードを連れていましたが、シュグ・ナイトのボディーガードに簡単にやられてしまいます。食事をしていたヴァニラ・アイスの向かいの席にシュグ・ナイトがドカっと腰をおろして一言「How You Doin'?(調子はどう?)」。

同様の出来事が何度も起こり、最後にはヴァニラ・アイスが宿泊していたラスヴェガスのホテルの15階にシュグ・ナイトがあらわれます。

何も知らずにヴァニラ・アイスが部屋に入ると、後ろでドアが閉まり、部屋の中にはなぜかシュグ・ナイトとその一味。ヴァニラ・アイスのボディーガードはさっさと殴られて銃を突きつけられ泣き叫ぶのみ。たった一人で部屋のバルコニーに連れ出されたヴァニラ・アイスは、くるぶしを掴まれて15階のバルコニーから吊り下げられます。シュグ・ナイトは語りかけます。「お前はこの書類にサインをする。 そんで、俺の地元に来てライブして、俺にひと稼ぎさせてあげたくなってきた。だよな?」。「はい、そのとおりです」とヴァニラ・アイスはサイン。

…ざっとこういう感じです。何度も現れるのに核心に触れずに帰っていって、最後の最後でドン!というのはヤクザ映画とかギャング映画とかでよくみかける手段です。シュグ・ナイトについては他にもDr. Dreの引き抜きの舞台裏などを読みましたが、鉄パイプとか人質とかが登場する恐ろしい話でした。デスロウの実態を描いたというドキュメンタリー映画「Welcome to Death Row」でこの辺りのことに触れられているそうですが、近所のツタヤはどこも置いてませんでした。

この事件に関して、のちにヴァニラ・アイスが振り返ってインタビューで語っています。2001年の記事です。

■ ヴァニラ・アイス、マドンナとスージ・ナイトについて語る(Barks)

「別にSugeに憎しみだとかそういうのは抱いてないよ。あのことは肯定的に考えるようにしてる。というのも事実としては、まあ、話したと思うけど、俺は '94年に銀行に2000万ドルの金が入っていながら自殺しようとしたんだ。そんなことがあったり、他にもいろいろなことを乗り越えてきたのに、いまさら Sugeが取ったものについて苦々しく思うわけもないだろ。肯定的に受け取ってるよ。なぜなら、Death Rowに使われたあの金は、2Pacのアルバム、『The Chronic』を作る資金にもなったんだ。ヒップホップ史上、最高のレコードの1枚さ。Snoop Doggのアルバムもだ。それが全部、Vanilla Iceの金が初めの資金となってできたんだ」

なんというポジティブシンキング。これは見習いたい。でも、実際彼の言う通りでしょう。

▲ Dr. Dre - Nothin But A G Thang

▲ Snoop Dogg - Who Am I? (What's My Name?)

▲ 2 Pac - California Love

"Ice Ice Baby"がヒットしていたのが1990年、Death Row Recordsがスタートしたのが1991年。上のような名曲の数々もヴァニラ・アイスがいなければ無かったかもしれないですし、HipHop界の勢力図も、よかれあしかれ、違った形のものになっていたことは間違いないでしょう。自分自身「ヴァニラ・アイス(笑)」という形でしか回顧してませんでしたが、この件を知ってちょっとだけ認識が変わりました。ん?なんだか"Ice Ice Baby"という曲自体が凄くいい曲のような気がしてきましたよ。このHIphop史にとって非常に重要な一曲"Ice Ice Baby"はヴァニラ・アイスのサイトでMP3が無料配布されています(→Link)。

MC Hammer and Vanilla Iceヴァニラ・アイスの人気が凋落したのはこの件とは全く関係なくて、ゲットー出身のモトクロスのチャンピオン、という経歴が詐称だったとバレたことが主な原因です。おおらかな時代でした。

一時期は引退してマイアミでバイク屋(店名は「To the Extreme」)をやったりしていましたが、現在は音楽界に復帰。彼のサイトを見ると最近はMC Hammerと一緒にライブをしています。すごい組み合わせ。場所はホテルの巨大プールでしょうか。楽しそうです。次回は10月の予定。最新シングルは、皆さんのご期待通り、「Ice Ice Baby 2008」です(→YouTube)。意外になかなか格好いいエレクトロハウスです。

■ 関連サイト

Text : 2009年07月10日 15:59

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