2009年08月10日 11:46

マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン Loveless - マイク・マクゴニガル

マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン Loveless本です。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのアルバム「Loveless」の研究本。

[書籍/レビュー]
タイトル : マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン Loveless
著者 : マイク・マクゴニガル
出版社 : ブルース・インターアクションズ
出版年 : 2009/3

My Bloody Valentineが1991年にリリースした90年代UKロックの金字塔「Loveless」を、バンドの中心人物ケヴィン・シールズ(Kevin Shields)へのインタビューを軸に読み解いていくという本。

この手の研究本はアーティストの半生や私生活、哲学、楽屋話、あと筆者のアーティストへの暑苦しい思い入れなどが中心になる場合が多いですが、この本は研究本というよりも、ケヴィン・シールズへのロング・インタビュー+αという感じ。アルバム1枚にテーマを絞っているためか、音楽の技術的な部分に触れた記述が多く、なかなか読みごたえが有りました。例えばこういう感じ。

いくつかの曲には、何層にも重ねられたパートがある。例えば『オンリー・シャロウ』のオープニング部分。そこでぼくは同じギター・フレーズを3、4回弾いているんだ。ストリングスのような効果をあげるためにロックンロールではよく用いられる手法なんだけど、ぼくの場合は1回弾く際にも、ふたつのアンプをお互いに向きあわせ、そのふたつに異なるトレモロをかけてみた。さらにそれをサンプリングして、サンプラーで1オクターブ高くしてみた。『アイ・オンリー・セッド』のギター・トラックとか『グライダー』のオーヴァーダブされたギター・トラックとか、自然なサウンドの動きが聞けるんじゃないかな。あと『サムタイムズ』の後半3分の2あたりに入っている"シンセサイザーのソロ"みたいに聞こえるところは、実はビリンダの声とサンプラーに入っていたオーボエふうの音源を加工したものなんだ

▲ My Bloody Valentine - Only Shallow

インタビューでは、おもに2つの理由からサンプラーを多く使ったことが語られています。1つは、上の引用部分からわかるように、新しい音を探求する目的。これはダンスミュージックからの影響も大きいようです。もうひとつは、ドラマーのコルム・オコーサク(Colm O'Ciosoig)が「Loveless」のレコーディング中に肉体的にも精神的にもボロボロになってしまい、ほとんどドラムを叩けない状態だったため。彼の演奏をサンプラーで切り貼りしてドラムトラックを作った、と告白しています。

アルバムの最後の曲「Soon」のダンスビートが打ち込みであることはわかっていましたが、これは意図的なもので、この曲だけは打ち込みっぽく聴こえるようにしたとか。他のほとんどの曲もサンプラーによるツギハギだったとは驚きました。今となっては当然の手法てすが、90年頃にこういうサンプラーの存在を隠すような使い方はほとんど無かったんじゃないでしょうか。ちなみに、ベースのデビー・グッギ(Debbie Googe)の演奏はアルバムに1音も入っていないそうです。

もうひとつ驚きだったのは、ボーカルのブリンダの声のレコーディングに、使用できるトラックの半分以上(24のうちの10から17)を費やしていたということです。ほとんどがギターとばかりに思い込んでましたが、全然違うみたいです。

ぼくはクリアーなヴォーカルに耐えられないんだ。ひとつの声だけが聞こえてくるのはいやなんだよ。スタジオで"仮歌"の入ったトラックといっしょにプレイバックするたび、この声ってやつが邪魔だな、もっとサウンドの一部だったらいいのに、と思ってた。だから、このアルバムのヴォーカルを録音する時は、少しばかりエキセントリックなことをやってみた。数多くのヴォーカル・トラックを録音したのはそのためさ

もちろんギターサウンドについても多く語られています。あの独特のディープな音像の秘密はモノラルに徹していることだそうで、コーラスやフランジャー、フェイザーなどのエフェクターやモジュレーションの類を極力排して、ステレオの真ん中でギターを爆発させることを重視してミックスしたと語られています。ステレオではなく周波数。ここが多くの「フォロワー」との決定的な違いだろうとケヴィンと筆者は意見が一致しています。一方で、一番使ったエフェクターはリバース・ゲイテッド・リバーブで、「To Here Knows When」のサウンドはこのエフェクターのサウンドと明かしています。

▲ My Bloody Valentine - To Here Knows When

レコーディングの技術面以外にも、クリエイションを倒産寸前に追い込んだとされる莫大なレコーディング費用が実際にはどれくらいのものだったのか、なぜレコーディングに時間がかかったのか、ジャケットにクレジットされている大量のエンジニア達はどういう貢献をしたのか、ケヴィンとブリンダの関係、「Loveless」以降の活動、未発表となったドラムンベースのアルバム、などについてそれぞれ面白い話が語られていますが、あとは読んでのお楽しみということで。

Review : 2009年08月10日 11:46

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