2009年08月02日 11:10

海賊版ソフトの使用を公言して炎上のDFA所属アーティスト、その言い分

YACHTというグループです。

YACHTはJona Bechtoltというアメリカ人アーティストと女性ボーカルClaire L. Evansのユニット。LCD SoundsystemのJames Murphyが運営するレーベル「DFA records」から2008年にEP「Summer Song」を出していて、この8月にアルバム「See Mystery Lights」がリリースされます。

▲ YACHT - Summer Song

YACHTでトラックを担当するJona Bechtolt(元々YACHTは彼のソロプロジェクトだった)が、機材関係のインタビューの中でクラックソフト(海賊版ソフト)の使用を堂々と公言してしまったことで、ひと騒動起こっています。

■ Jona Bechtolt(waferbaby)

音楽制作にはAbleton社のLive 7を使ってるんだ。(中略)Audio Damageのプラグインは大好きだよ、海賊版(pirated)だけど。ごめんね! ちょっと前にひとつは買ったんだっけ? (中略) Reasonも盗んだものなんだ。ステレオ編集とマスタリングにPeakもよく使ったけど、クラック版を探すのが大変になってきたね。(アルバム)「Magic」を作ってるときにクラック版のLiveが動かなくなったから、結局は購入したよ。こんなにたくさん盗んじゃって、わたしは悪人でしょうか?

Audio Damage Dubstation彼が大好きなプラグインを作るメーカーとしてあげている「Audio Damage(以下AD)」は、小粒ながら評価の高い音楽ソフト用プラグインを開発しているソフトメーカーで、開発者イコール経営者(多分)のインディペンデントな小さな会社です(→Link)。

ADは自社の5周年を振り返るブログへのエントリーの中に、Jona Bechtoltが権利侵害を宣言したページへリンクをはって、自分たちが耐えている「奔放な愚行」の一例として、これを非難しました。このブログのコメント欄にはJonaの行為を非難する投稿で埋め尽くされます。そこに、どこで聞きつけたのか、Jona Bechtolt本人が降臨。コメント欄に反論を投稿します。要旨を書き出します。

■ Five Years, What A Surprise...(Analog Industries)

まず、ADの海賊版ソフトの使用を「言いふらした」ことは全く馬鹿な行動でした。でも、君ら全員、自分が使ってるすべてのソフトを金を出して買ってると言えるのか? 俺はミュージシャンだけど、俺も俺のミュージシャン仲間も、ここ数年は音楽に金を払っていない。もし君らも音楽を買ってないんだったら、俺がADのプラグインを盗んだのと一体どこが違うんだ? 海賊行為に関しては誰もが無罪とは言えないよ。権利侵害行為っていうのはある種の解放運動だと思うんだ。俺があのインタビューで言いたかったのはそういうこと。高い楽器を買う余裕の無い人でも素晴らしいソフトを使えば音楽が作れるっていうことで、金の話じゃない。

あーやっちゃったという感じで、炎上。英語では"blow up"や"flame war"と表現するようです。炎上とはいっても罵倒で1000コメント埋め尽くされるタイプのものではなくて、そこそこ真っ当な意見が数十並ぶ程度のもの。それ以上に、音楽情報サイト「Pitchfork」がニュースとしてこの件を取り上げたことで広く世間に知れ渡ったようです(→Link)。

この謝罪のような開き直りのような書き込みと、その後届いたという本人からのメールを受けて、ADの責任者「CR」がブログに見解を表明します。Jonaからの謝罪は受け入れないし、支払いも拒否する。しかし、あなたを訴えるつもりは無い、とした上で、真に望むこととして以下のような一文が書かれています。

■ An Open Letter To Jona Bechtolt...(Analog Industries)

私が真に望むのは、あなたが私たちから奪い取った1と0の集合体は意味のある創造物であるということをわかって欲しいということです。Adamと私はこのプラグインに何ヶ月、場合によっては何年をも費やしました。これは私達にとってリアルなことであって、これを売ることで屋根の下に居られるし、暖をとれるし、冷蔵庫をいっぱいに出来るのです。Dubstation(Kombinat、Reverence、BigSeqなど、あなたが私達から盗んだソフト)はあなたが音楽を作るのを手助けしましたか?(あなたが音楽を作っているのと)同じ時間にAdamと私はプラグインをコーディングしてモデリングしてデザインしてポーティングしてテストして、販売していたのです。(中略)もしあなたが私達の作ったものを埋め合わせすることなく使うことを選んだとしても、私達に出来ることはほんの少ししかないと認めざるを得ません。でも、知っておいて欲しいのは、悪いことは悪いということなのです。あなたが悪人かどうか知りたいというのなら、答えはひとつしかないのです。

長い文章のほんの一部分の抜粋です。零細ソフトメーカーの日々の苦労がひしひしと伝わってくる心打たれる内容です。

YACHTこのエントリーの一ヶ月後、JonaはYACHTのサイトに「OFFICIAL PIRACY POLICY」と題したテキストを掲載します(→Link)。内容は先のコメント欄への投稿を丁寧に書き直したようなもの。これをきっかけに皆で考えよう、みたいにまとめられていて、ADからの「公開返信」を受けた反論などは無し。むしろエントリーの中ではADについて全く触れられておらず、先の議論へのリンクもありません。コメント欄で一人が長文の議論をけしかけていて、何ラリーか応酬がありますが、あまり噛み合わず、最終的にJonaは登場しなくなります。

これらの出来事が起こったのが2009年の1-2月頃。そしてこの7月、YACHTのニューアルバム「See Mystery Lights」がリリースされるのに合わせて「DUMMY」という音楽サイトに掲載されたインタビューの中で、本人がこの炎上騒動について振り返っています。おおざっぱに翻訳します。

■ YACHT: "Koala trainers and us." Mystical DFA pop band who are way more than a pop band.(DUMMY)

インタビュアー: この反応には驚きましたか?

Jona: 正直言って驚いたよ。炎上する前、Pitchforkとかあちこちに取り上げられる前に(ADに)4つのプラグインのお金を払います、ってすごく丁寧なメールを出したんだよ。

Claire: ほんとうにお金払ったの?

Jona: いや、申し出たんだけど断られた。彼はメールに返信せずにブログに返事を書いたんだよ。それって本当にばかげてるよ。実際炎上してたのはそのブログだけだったってのは笑えるけどね。

インタビュアー:それは実に狭い範囲ですね

Jona: ほんとに。ソフトウェアや映画やその他よりも、音楽は一番権利侵害されているんだよ。一番おかしかったのは、俺たちはこうした(権利侵害された)モノを使って権利侵害される音楽を作ってるってことだよ。こうした権利侵害のサイクルが続いているんだ。

Claire: ある意味では、私達の(正当な)分け前を得ているだけなんじゃないかって思う。私達は違法なソフトを使って音楽を作ってるけど、違法に音楽をダウンロードしてる人々のせいでたくさんのお金を失ってる。

畑から野菜を盗まれたからといって、トラクターを盗んでくる理由にはならないと思うんですけどね。音楽を取り巻く深刻な権利侵害問題に物申したかったのか、リスナー・ユーザー側に立っていることをアピールしたかったのか、いずれにせよ、これではあまりにもお粗末です。Pitchfork曰く「モノは盗むな。盗んでもネットで言うな」。

News : 2009年08月02日 11:10

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