matsu & take

「売れなさそう」という理由で2002年にいったんお蔵入りになったアルバムです。こうして日の目を見た作品を聴いてみると、曲はとてもいい曲ですし、気に入って何度も聴いてますが、商業的な飛躍を期待される人気ラッパーのソロアルバム２作目としては、確かに弱く感じてしまいます。

2002年に作られたというのを十分に考慮するとしても、生演奏のジャズとヒップホップのミクスチャーというアイデアは当時としても特に目新しいコンセプトでもなかったですし、何よりもQ-Tipという人はA Tribe Called Questの一員としてジャズとヒップホップの融合を先導してきた人物。そんな彼がこれまで以上に深くジャズに歩み寄るとなると、「なかなかいい曲」レベルの出来では満足してもらえないという厳しいハードルを課せられてしまいます。そういう意地悪な観点では、ジャズへの歩み寄りが「ジャジィなコード進行」「ジャズプレイヤーのソロ演奏」というような表面的なものに留まっているのが物足りないです。

ですが、いかに表面的なものとはいえ、Q-Tipのあの特徴的な声とジャジィな生演奏という組み合わせが、何物にも代え難い素晴らしいムードを生み出しているのも事実で、とくに女性コーラスとの戯れ「Caring」から「Even If It Is So」への穏やかな流れは鳥肌ものです。Q-Tipは多くのトラックで歌を唄っています。

2002年にこの「Kamaal The Abstract」が出ないことになってから、2008年の「The Renaissance」まで６年の間が開くわけですが、「The Renaissance」が気負いの全く感じられない、コンパクトによくまとまった素晴らしいアルバムだったのは、それまで抱えていたジャズとの距離の取り方のモヤモヤを「Kamaal The Abstract」で吐き出し尽くしたからなのだろうな、と感じました。

ところで、このアルバムのクレジットについてですが、一部にJ Dillaがプロデュースとして関わっているという情報があります。

■ 『Kamaal The Abstract』オフィシャル･リリース（HMV）

あの故J Dillaもプロデュースで参加しています。

他にもいくつかの海外の音楽サイトで「The album was produced entirely by Q-Tip and J Dilla.」と記述されたレビューをみかけました。しかし、ブックレット内にはJ Dillaに関する記載を見つけることはできず、プロデュースのクレジットは「All Tracks Produced & Endineered by Q-Tip」となっています。D'Angelo「Voodoo」にノンクレジットながらJ Dillaがブレーンとして深く関わっている例があるので、クレジットをそのまま鵜呑みにすることはできないのですが、今回については関与を裏付ける情報は全く見当たりません。

気になるのでいろいろ調べましたが、やはり決定打となる情報は見つからず。YouTube内のKamaal The Abstractの動画全てに投稿者のコメントとして「Produced by Q-Tip & J Dilla, from the album: Kamaal The Abstract」と入っているのが一番目につく情報。正規リリース前に流通していたブート盤にそういうクレジットがあったのでしょうか？ そのYouTubeのKamaal The Abstract関連動画のひとつのコメント欄に、以下の投稿を見つけました。

■ Q Tip- Caring（YouTube）

None of these tracks off kamaal are produced by Dilla jus ta let yas know...I know wikipedia lists him as co-producer but it aint true! Dilla said in an interview he had nothin to do wit this lp and lets face it, sounds nothin like wat would come out of dilla...

「これらのKamaalのトラックをDillaはプロデュースしてないよ。Wikipediaに共同プロデューサーって載ってるけど、それは間違い！ DillaがインタビューでこのLPには何も関わってないって言ってたし、音もDillaっぽく無いよね」というような感じ。Wikipediaには今は修正されたのかJ Dillaの名前はありません。インタビューでの発言というのが事実なら、J Dillaは無関係で確定です。プロデュースもエンジニアもミックスもQ-TipのQワールドへようこそ。