2009年11月22日 21:57

違う!Kraftwerk リマスター「Tour De France」の新旧波形比較

Kraftwerk - Tour De France2003年の作品を2009年にリマスター。ミックスが違う!

[音楽/レビュー]
タイトル : Tour De France (2009 Digital Remaster)
アーティスト : Kraftwerk
レーベル : Mute/EMI
リリース年 : 2009/11

このたび、めでたくKraftwerkの旧譜がリマスター再発されました。ネット上には「音がクリアになってる!」「ジャケットが違う!」「曲が追加されている!」などなど、色々な発見や感想があがっています。

当然、自分も初期作品の音が良くなっていることやアートワークの変更に興奮しましたが、実はリリース前に一番気になっていたのは「Tour De France」のリマスター具合でした。2003年の作品が2009年にリマスターされるという異例さもあるのですが、プロモ盤を聴いたらしき(?)人のAmazonへのフライングのレビューが、非常に興味の湧く内容でした。

■ マスタリング技術の飛躍的進歩(Amazon : The Catalogue レビュー)

(略)意外なことに最新録音であるはずの「ツール・ド・フランス」は中でも際立ってリマスター効果をあげている(リミックスかと思うほどに)。〈90年代テクノ風な感じ〉は払拭され、むしろ「コンピューター・ワールド」の音に近づいたような気がする。若干柔らかくなったとでも言おうか。そして音がクリアになったことで、細部にわたり(空間処理も含めて)一分の隙もなく綿密に曲が構築されていることがはっきりと分るようになった。

もちろん「Autobahn」から「The Mix」までの旧作の音がクリアになるのはわかります。実際そうなっています。でも、2003年の段階で水晶の如くクリアで、音圧も問題無し、完全無欠に素晴らしいサウンドだった「Tour De France」が、「リミックスかと思うほどに」音が良くなっているとは、半信半疑、ちょっと想像出来ませんでした。

ということで、ボックスセット「The Catalogue」を宅配業者から受け取った自分の一番最初の作業は、「Tour De France」の旧盤とリマスター盤のデータをパソコン上に吸い出して波形を比較することになりました。比較に使用した旧盤は、Astralwerksからのアメリカ盤です。

Tour De France 新旧ジャケット

▲ 左が旧盤、右がリマスター盤(ボックスセット)。タイトルからsoundtracksの文字が消えました。

ザッと全曲のデータ抜き出して波形を比較すると、ほとんどの曲の波形には大きな違いがありません。微妙な微妙な波形の違いは認められるのですが、いざ聴いてみると、何が違うのか今ひとつよくわかりません。「ん?低音にキレがある?」「シンセが前に出てる?」など、感じる瞬間はありました。でも、確信を持つまでには至りませんでした。結果的に、確かに波形を見る限り、音は微妙に変化しています。旧盤がスライドしてそのまま収録されているということではなさそうです。でも、Amazonのレビュー人の感じたような「リミックスかと思うほど」の劇的な変化は感じられませんでした。

ところが!

一曲だけ(追記有り)、波形の違いが明らかで、並べて聴けば一発で違いのわかるポイントがいくつもある曲を見つけました。アルバムの2曲目「Tour De France Etape 1」です。この曲は「リミックスかと思うほど」の違いがあります。何が違うのか。まず、ロボットボイスで入る「ツール・ド・フランス」という声にかかるエフェクトが違うのです。

「Tour De France Etape 1」の中で、ロボットボイス「ツール・ド・フランス」は曲中に4回言われます。曲ラストに入っている1回以外の3回で音が違っています。

音をmp3などで直接あげてしまうのは権利上問題あるので、それぞれの波形の画像を下にあげます。波形から音を感じ取ってください。はっきりと違いのわかる部分の色を変えました。上の赤色が旧盤、下の青色がリマスター盤です。

1回目。1分25秒付近。

Tour De France 1分25秒付近

2回目。2分9秒付近。

Tour De France 2分9秒付近

3回目。3分7秒付近。

Tour De France 3分7秒付近

それぞれ、ロボットボイスにかけられたディレイの左右への振られ具合、フィルターのかかり具合が違います。これはリマスタリングの効果ではなくて、明らかにミックス自体が違っています。

このロボットボイスへのエフェクト以外にも「Tour De France Etape 1」には違う部分があります。3分24秒付近、シンセパッドとハイハットが明らかに異なります。旧盤ではシンセパッドの音色の中低音の部分に比重がありますが、リマスター盤のシンセパッドは高音の部分に比重があります。また、シンセパッドに乗っているハイハットは、旧盤はキックが無くなると徐々に弱くなるのですが、リマスター盤はハイハットは弱まらずにそれまでどおりの大きさで鳴り続けます。このシンセパッドとハイハットの違いも、リマスタリングの効果ではなくて、ミックス自体が異なるのではないかと推察します。

また、自分の機材環境の問題なのか、自分の持っているCDだけの問題なのか、あるいは全てのCDの問題なのか、まだ判断出来ていないのですが(追記有り)、少なくとも自分の持っているリマスター盤のCDは、この3分24秒付近で「音飛び」が起こっています。何台かのCDドライブでチェックしましたが同様でした。ほんの0.1秒にも満たないくらい、波形を並べて見てなければ気付かない程度に音が飛んでいて、波形を見ると旧盤とリマスター盤でそのポイントを起点に音がズレているのが確認できます。

3分24秒付近の波形です。よく見れば、ズレだけでなく、ハイハットの違いも目視できます。

Tour De France 3分24秒付近

これは不良品なのか、いや、深淵なるロボット・アートの一部なのか。ネットを検索しても、いまのところ同様の指摘が見つけられないので、自分の環境の問題なのかCDの問題なのかマスターの問題なのか判断出来ません。皆さんの手にしているCDはどうですか?

以上、届いて半日で気付いた、新旧「Tour De France」の違う部分と違わない部分を記しました。「Tour De France」以外のアルバムにもリマスター以上の違いがあるかもしれませんし、まだまだ「Tour De France」で気付いていなポイントがあるかもしれません。しばらくはKraftwerk漬けになりそうです。

■ 追記:09/11/25

もう一曲、わかりやすい違いのある曲を見つけました。アルバムの10曲目「La Forme」です。この曲もロボットボイスに違いがあります。6分20秒付近、旧盤はロボットボイスが順番に「Inspiration/Expiration/Contraction/Decontraction」と発音してドラムが止まるのですが、リマスター盤は「Inspiration/Expiration/Contraction/Decontraction/La Forme」と、旧盤には入っていない「La Forme」を発音するのです。

La Forme 6分20秒付近

波形でも確認できます。

また、3分24秒付近の「音飛び」について、「自分のCD(英盤ボックス)も音飛びしている」という報告をTwitterで頂きました。

もう一度波形をしっかり見てみると、この3分24秒の音飛びで旧盤とリマスター盤は波形がズレるのですが、「Tour De France Etape 1」の一番ラスト、4分25秒付近のロボットボイス「ツール・ド・フランス」の「フラ」の部分がほんの少し引き延ばされていて、そこで帳尻が合わせてあるのが確認出来ます。

Tour De France 4分25秒付近

色を変えた最初の部分でズレているのが、最後の部分で元に戻っています。

ということは、「音飛び」が起こっているを確認した上で、引き延ばしの作業が行われたことになります。これはCDの不良ではなく、深淵なるロボット・アートの一部…。

■ 関連サイト

Review : 2009年11月22日 21:57

ブックマーク

Yahoo!ブックマークGoogleBuzzurlニフティクリップlivedorr clipdel.icio.usはてなブックマーク違う!Kraftwerk リマスター「Tour De France」の新旧波形比較のはてなブックマーク数

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL :
http://www.spotlight-jp.com/matsutake/mt/mt-tb.cgi/397

このエントリーへのトラックバック :

一通りKRAFTWERK全アルバム自力リマスタ終了 [ユルいDIALY]

改めてヤッてみて、以前「あンまし過激にEQ補正してなさっぽ」な〜ンて書いちゃったが、録音し直したンぢゃネ?とか思っちゃう程の「THE MIX」と「TOU...

2009年11月23日 21:34