2009年12月29日 13:09

(地味ながら)ここが一番違う!Kraftwerk リマスター再発の波形比較再び

The Catalogue Kraftwerkノイズ減・音量アップ・EQ補正以外にも違う点があります。

[音楽/レビュー]
タイトル : The Catalogue
アーティスト : Kraftwerk
レーベル : Mute/EMI
リリース年 : 2009/11

■ クラフトワーク「人間解体」(旧日本盤ライナーノーツ)

目眩(めくるめ)く音空間のきらめきが機械文明に支配された世界を鋭く描写する。エレクトロニクスが警鐘した文明社会の危機とは何か?それはこのクラフトワークをきくがよい!(伊藤政則)

11月に「違う!Kraftwerk リマスター『Tour De France』の新旧波形比較」(→Link)という記事で、リマスター再発されたKraftwerkのアルバム「Tour De France」の波形を比較して、ミックスが違う部分を指摘しました。実はその後も、他のアルバムの波形比較をチマチマと続けてまして、全アルバムをCDで所有しているわけではないので一部のアルバムだけなのですが、大まかな傾向が見えてきたので、現段階でわかったことを記しておきます。

結論から書くと、初期の作品に共通して、曲の長さが違います。そりゃまぁ、リマスターによってフェードアウトの微妙な長短の調整から曲の長さに違いが生じる程度のことは予想の範疇だと思います。しかし、今回のKraftwerkの初期作品の場合、この曲の長さの違いはフェードアウトの微調整から生じるものではなく、曲のテンポが違うことから生じています。

わかりやすい波形をあげます。アルバム「ヨーロッパ特急(Trans Europe Express)」から、組曲となっている「Trans Europe Express」「Metal On Metal」「Abzug」の3曲の波形を連続して抜き出しました。比較に使用したCDの、旧盤は日本盤、リマスター盤は英盤です。上の赤色が旧盤、下の青色がリマスター盤です。

まず、波形の全体図。

Trans Europe Express 波形

上の赤色で表示された旧盤のほうが少し早く終わっている(曲が短い)のがわかります。

終りの部分を拡大します。

Trans Europe Express 波形

波形がズレズレです。もちろん曲の先頭部分で波形をピッチリあわせた上で、このズレです。おおまかに見て最後の地点で8〜9秒のズレが起こっています。

並べて聴くとすぐわかりますが、このズレの原因は曲のテンポの違いです。リマスター盤よりも旧盤のほうがテンポが早く、先に曲が終わってしまっています。BPMを計測出来るソフトで単純に計算させてみると、旧盤は108.7bpm、リマスター盤は107.5bpmとなりました。BPMにして1以上の差があります。

このテンポの差はマスターテープの回転速度の違いから生じているものだと推測します。テープの回転速度の違いからテンポが変わっているということは、当然、音程のズレも起こっています。レコードプレイヤーを連想してもらえばわかるとおり、回転を早めてテンポを早くすると音程が高くなり、回転を遅くしてテンポを遅くすると音程が低くなります。「Trans Europe Express」での音程のズレは、単体で聴くぶんにはわからないレベルですが、並べて聴けばわかります。

ヨーロッパ特急 ジャケットこの「Trans Europe Express」組曲以外の初期作品にもテンポ・曲長のズレは多く起こっていて、具体的には、アルバム「ヨーロッパ特急」はリマスターで全曲が少し遅くなっていて、CDのトータルタイムが15秒も長くなっています。「人間解体(The Man-Machine)」の場合はラスト曲「Man Machine」がリマスターでテンポが遅くなっていて、他の曲はテンポが早くなっています。一方で、マスターテープが最初からデジタルで残されている(らしき)「The Mix」と「Tour De France」では、まったくテンポのズレは起こっていません。ドンピシャ。

このマスターテープの回転速度によるテンポと音程の違い、新旧どちらが「正しい」のかは、Kraftwerk本人達にしかわからないことなので、これはリマスター盤が正しいと解釈しておくしかないですし、さすがにこの程度のチェックはしているはずです。品質の悪い海賊盤で回転速度が間違っているという話はよく聞きますが、名盤とされるようなメジャーレーベルから発売されている作品ですら同様の問題を抱えているとは思いもしませんでした。今回のKraftwerkのリマスター再発に限らず、マスターテープがアナログテープだった時代の作品のリマスター全てに起こりうる現象だと思います。

さて、今回のリマスタリング、ネットでは「ミックス自体をやり直しているのではないか」というレビューを多く見かけます。しかし、自分は「Tour De France」以外にはミックスの変更を見つけることは出来ませんでした。劇的に音が変わっている曲は多くあれど、すべてイコライザーやコンプレッサーで作業可能な、マスタリング段階の作業だと思います。「The Mix」にミックス違いの可能性を疑って隅々くまなく探しましたが、結局見つけられず。

トラック違いなど、その他に明確な違いが報告されているのは以下の3点です。

  • Techno Pop …「House Phone」を追加収録、「Telephone Call」は7inchバージョンに変更。
  • The Mix …「Dentaku」3:04付近の(旧日本盤のみに施されていた)編集が英語版すべてに採用(→こちらの方のブログが詳しい)。
  • Trans Europe Express …(ドイツ語版と同様に英語版でも)「Metal On Metal」と「Abzug」がトラック分割された。

イコライザーやコンプレッサーでの音の変化については、賛否両論があって当然だと思います。自分も「この曲は音量上げすぎて途中で音が潰れる部分があってもったいないなー」「この曲はここまでキックを前面に出さなくていいのになー」と感じる曲がいくつかあります。でも、やはり旧盤と並べて聴くと、リマスター盤のノイズの無さ・クリアさは圧倒的で、ましてやマスターテープの回転速度まで違っていたとなると、旧盤に戻ろうという気は全くなくなります。

最後に、今回のリマスターで一番お気に入りの変更ポイントの波形を貼っておきます。マイ・フェイバリット・波形。上の赤色が旧盤、下の青色がリマスター盤です。

Trans Europe Express 1分30秒付近

「ヨーロッパ特急」から「Trans Europe Express」の1分30秒付近、加工された金属的な声で「トランス・ヨーロッパ・エクスプレス」と4回言う部分の4回目。旧盤ではこの金属的な声の「ス(S)」の歯烈音が大きすぎて、ヘッドホンで聴いていて耳が痛いくらいだったのが、なんということでしょう、リマスターによって丁度良い具合のまろやかな音に変身しました。

■ 関連サイト

Review : 2009年12月29日 13:09

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