2010年08月17日 18:21

このアルバムの何が80年代を感じさせるのか / 20Ten - Prince

20Ten - Princeミネソタのパープル・ヨーダ。

[音楽/レビュー]
タイトル : 20Ten
アーティスト : Prince
レーベル : NPG records
リリース年 : 2010/7

自称「ミネソタのパープル・ヨーダ」ことプリンスの新アルバム「20Ten」は、ヨーロッパで新聞のおまけとして配布されました。今のところ日本だけでなくアメリカでの発売も無し。ジャケットはペラッペラの厚紙です。

ネットで目にするこのアルバムのレビューの99%に「80年代」の文字。実際、自分もこのアルバムから強く80年代を感じています。しかし、その原因として多く指摘される「リンドラムの復活」については、プリンスは2000年台中盤くらいからずっとやってることですし、それだけでは無いように思います。何がこのアルバムを80年代っぽく聴こえさせているのか。

■ カッティングギターが主役に

4曲目「Sticky Like Glue」から「Act Of God」「Lavaux」と続く中盤3曲が特にわかりやすくて、ファンクっぽいカッティングギターが強く前面に出ていて、リンドラムと組み合わさって粘っこいグルーヴを作っています。アレンジ的な意味でもミックス的な意味でもギターが前に出たアルバムになっています。

デビューから「1999」くらいまではこういうギターが前面に出た曲がアルバムに必ず何曲かあったのが、徐々に減っていき、90年代以降は入っていても目立たなくなっています。80年代っぽいといわれた昨年の「MPLSoUND」ですら、カッティングギターは他のシンセ類と同列の扱いで、ギター自体の登場も少ないです。ライブでは過去現在ずっと変わらずこういうギターを弾いてきたプリンスですが、レコーディングに関しては「カッティングギターのグルーヴをいかに他の楽器で表現するか」に注力していたのではないかと感じました。今作は多くの曲でギターの刻むリズムが曲の中心になっています。

■ キックドラムが軽い

R&Bやヒップホップを意識していたのか、最近のプリンスは打ち込みでダンスっぽい曲をやるときは「ズシッ」とした重みのあるキックを使っていました。しかし、このアルバムのキックドラムはリンドラムの「トンッ」という軽い音色をそのまま使っているように聴こえます。このキックの軽さは実に80年代的です。

■ 打ち込みロックンロール

リンドラムの復活は過去のアルバムで実施済みですが、このアルバムが過去のアルバムと違うのは、リンドラム復活がロック調の曲にまで及んでいる点です。わかりやすいのがアルバムの最初の曲「Compassion」と最後の曲「Everybody Loves Me」。

アップテンポで古風なロックンロールの電子化という80年代プリンスの定番スタイルです。90年代中盤以降、ブラック色の強い曲ではドラムマシンを使っても、ロックをやるときは打ち込み無しの本格的なバンドサウンドでやることがほとんどでした。

以上の3点が80年代っぽさの原因ではないかと考えました。

その一方で、スローな曲は80年代テイストはさほど強くなく、「Future Soul Song」は90年代Emancipation期っぽい曲調ですし、「Walk In Sand」はバンド演奏中心だった近作っぽい大人の雰囲気です。

ギター・マガジン80年代との相違ということで言えば、歌詞はかなり違います。「1999」収録の「Let's Pretend We're Married」と曲調が似ているとよくいわれる「20Ten」1曲目の「Compassion」、前者の歌詞が「口元の素敵なあなた、お時間よろしければ私と一晩中ファックしませんか」という内容なのに対して、後者は「肌の色など関係なく友達になろう、思いやりを持とう」という内容。「Act Of God」は税金と神についてうたっています(税金滞納報道への反論か)。今も昔も「神と愛」がテーマになっている点は変わりませんが、2001年「The Rainbow Children」以降は、その表現の仕方が大きく変わりました。歌詞が80年代に戻ることは、もうありえないでしょう。

このアルバムを聴いて「こういうプリンスが聴きたかった!80年代全盛期再び!」という人も多かろうと思いますし、自分も「10点満点で20点」という禁断のダジャレを書きたい気持ちを抑えられないほどに気に入ってます。しかし、アルバム全体の妙な軽さ、ハッピーさに一抹の不安を感じてしまうのです。一般に「暗黒期」とされる90年代プリンスの音楽も普通に好きな自分にとっては、「20Ten」でのプリンスは、なんというか、優等生すぎるのです。「もっと普通にやればいいのに、意地はっちゃて…」というようなアルバムもまた聴いてみたい。贅沢な不満です。そういう意味で、先の「インターネットは終わった」発言(→Link)には期待感が高まります。

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Review : 2010年08月17日 18:21

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