2012年03月14日 17:24

フランソワ・ケヴォーキアンが熱く語る「デジタルDJ vs アナログ原理主義」

自分はTraktor派です。

ニューヨークのベテランDJ、という表現では軽過ぎる気がしますが、DJのフランソワ・ケヴォーキアン(François Kevorkian、François K)がFacebookで「デジタルDJ」についての議論をしています。

フランソワ・ケヴォーキアンは近年パソコンを使ってのデジタルDJスタイルに移行しているそうですが、トップDJに対する期待なのか、彼がパソコンでDJをすることに対して直接的・間接的に中傷を受けることがあるようで、それらの声に対してFacebookに熱い文章を投稿してます。これが興味深い内容だったので一部を翻訳してみました(いつもの感じの雑な訳ですが)。

■ Living In A Digital World - Part Seventy-Two. (..the ongoing saga)(Facebook)

フランソワ・ケヴォーキアンDeep Spaceに2人のゲストDJを招いたことで一つ気付いたんだけど、一人がSerato(注:DJソフト)を使って、もう一人がAbleton Live(注:DJもできるソフト)を使っていてたので、私がそこにTraktor(注:DJソフト)をセットするのは無理だと思い、その夜はCDJでプレイしたんだ。

パーティーは問題なかったんだけど、自分のことで少し困ってしまった。約9年前から率先してTraktorを使ってきたから、S4コントローラー(注:Traktorの専用コントローラー)で操作できて当然と思っていたすべての機能にアクセスできなくなるのは、とても奇妙な感覚だった。レコードやCDでは簡単にできなかったそれらの機能は、私(のDJプレイへの姿勢)を大きく変化させた。

例えて言うと、S4を使わないでDJするのは、自分のパレットからすべての色を取り除くようなもので、プレイしたい曲をパソコンの中を検索して探し出し、3秒以内に再生可能な状態にするような、通常の衝動的な即興プレイができなくなってしまった。

コンピューターを使ってプレイするDJを「デジタルDJ」と人々はバカにするが、彼らが何故そんなに怒っているのか私には理解出来ない。嫌なら無視すればいいし、それが存在しないように振る舞えばいい。マルコム・マクラーレンがSex Pistolsの受けた悪意あるレビューについて指摘していたように、どんな記事でも出版されたら書かれた側の利益になるし、たとえ嫌われていても人々の関心を引き付けていることを表している。間違いなく無関心が一番の恐怖だ。

明確なことは、私達はいまだにここで破壊的なテクノロジーと取っ組み合いを続けているということで、ドラマーがドラムマシンに置き換えられた時のように、訓練も経験も基本もしっかりできていない専門知識の無い人々に対してテクノロジーが与えられている。実際に、ある程度の経験のある独占的だったDJ達が入れ替えられることもある。これは私達がテクノロジーに対して支払うべき代償なのかもしれない。かつては技術のあるプロしか入手できなかったものが大衆向けに簡易になった。あなたがまだ仕事のやり方を覚えておらず、下積みをしていないなら、このプロセスに従うことになる。私はこれに異議はない。

しかしその点(プロの機材)については隠し事をするのはやめよう。DJブースの中を覗いて見れば、そこにはノートPCの代わりに、黒い箱の中にフルコンピューターが内蔵されたPioneerの新しいCDJ-2000が置かれている(画面は小さくキーボードも無いが、洗練されたコントローラーの付いた入力装置だ)。しかし、どちらも事実上、起動したコンピューターだ。USBやイーサネットのポートがあり、他のコンピューターのようにネットワークに接続する機能もある。それなのに「デジタルDJ」を憎んでいる人達は、いったい何に執着しているんだろう?外見?箱の形?WTF?

アナログレコードについて言えば、デジタル嫌いな人々の多くがアナログ盤をサポートする戦いに参加しているのを見ると少し笑えてくるんだ。直近のアナログ盤リリースの平均売上の書かれた図を見てくれよ。1プレスについてほとんどが全世界で500枚程度だ(ダブステップはもう少し多い)。数千の人々がたった500枚しか売れていないものについて大声で不平を言ってるなんて。アナログ盤をプレイしないDJに怒るのは間違っていないし、その感情は理解できる。しかし、不満をいうのと同じだけの労力を使ってアナログ盤のリリースそのものをサポートしていないのは奇妙なことだ。店に買いに行けばいいし、オンラインで注文すればいい。需要があってもレコードレーベルは多くの枚数をプレスする気が無いだなんて、本気でそう考えているのか?

このように表現することを申し訳なく思うが、不平を言う人々の多くが自分達が強く擁護しているフォーマットをサポートさえしていないのは少し不誠実に感じる。

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以上、ここまでが問題提起の部分で、この後、Facebookのコメント欄では議論が始まっています。話題はデジタルDJの是非に留まらず、「音質の悪いMP3を使うDJもいるが全員じゃない。だったらコピーを何度も重ねたような円心のずれた酷い音質のアナログ盤をかけてる奴らが大勢いるのはどうなんだ」というような話から「ステージでパソコン画面を見てるとメールでも送信してるんじゃないかとバカにされるが、オーディエンスもフロアでツイッターやったり写真撮ってばっかりでひどいだろ」「クラブでは踊れたらそれだけでいいのか」というような話まで、ケヴォーキアンのコメントはどれも経験に裏打ちされた興味深い内容なのですが、文量が多すぎるので訳はここまで。

いろんなクラブミュージック系のサイトやフォーラムで上の文章が話題になっていて、それらのコメント欄の意見はおおむねケヴォーキアンに対して好意的です。ネガティブなものは「デジタルでもいいけど、曲を自動でつなぐ奴はダメ」というようなデジタルの機能に頼り過ぎるプレイを否定する内容が多いです。あと「この文章はTraktor S4のプロモーションだろ」というのもちらほら。嫌ステマに国境無し。

年に数回パソコンでDJする程度の自分でも(オファー受付中:宣伝)、上の「Traktorを使わないとパレットから色を取り除かれた感じ」という比喩には共感できますね。まさにそういう感じです。自分がやるという意味では、もうパソコン無しは考えられないですが、他の人がやるぶんには、不愉快な音質でなければデジタルでもアナログでも何でもいいと思います。

フランソワ・ケヴォーキアンもアナログ盤を否定しているわけでは無く、本人もアナログ盤をリリースするレーベルをやってますし、今でもよくアナログ盤を買っていると書いています。アナログ盤はパソコンに24bit/96kHzで取り込んでデータ化してから使用しているそうで、音質の違いは通常の10倍規模の「巨大サウンドシステム」で聴いたらわかるそうです。

News : 2012年03月14日 17:24

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