2012年09月13日 13:26

なぜfabricのDJMix作品はiTunesで売られていないのか - 当世DJMixライセンス事情

真相に迫る!

いきなりタイトルに反することを書きますけど、正確には、8月に出たfabricシリーズ最新作「fabric 65: Matthias Tanzmann」はiTunes Storeでも配信されていて、これが2001年から続くロンドンの老舗クラブfabricがリリースしてきたミックスシリーズ「fabric」と「FABRICLIVE」を通じて、初のiTunes Storeでの配信作品になります。

では、何故これまでfabricはiTunesで配信してこなかったのか、何故今回の「fabric 65: Matthias Tanzmann」は配信されているのか、その理由について、レーベルのプロダクトマネージャー、Leo Belchetzさんがレーベルのブログでくわしく説明しています。これが現在のDJMixのデジタル配信事情についてよくわかる面白い文章だったので、全部ザザッと訳してみました。拙訳失礼。via: residentadvisor

■ ITunes, Your Tunes, Their Tunes And Our Mixes: An Absence Explained(fabriclondon)

For several years, one of the questions most frequently directed towards our record label is, “Why can’t I get your mixes on iTunes?” Well, as we’re now able to announce that fabric 65: Matthias Tanzmann is to be the first mix in the fabric and FABRICLIVE compilation series to be available internationally through iTunes, it seems the opportune moment to explain the reasons behind our absence to date, and to give you an insight into our future on the store...

iTunesここ数年で私達のレコードレーベルにもっとも頻繁に寄せられる質問は「何故あなたのレーベルのミックスをiTunesで買うことができないの?」です。fabricのミックスとして初めて「fabric 65: Matthias Tanzmann」と、FABRICLIVEのコンピレーションシリーズが世界的にiTunesで配信されることをアナウンスできることになり、今までiTunesで配信してこなかった理由や、ストアに対する私達の洞察について説明するのに最適なタイミングだと思います。

Their tunes: their rules

私達のミックスの基本的な部分から始めましょう。私達がシリーズのために選んだアーティスト達によって、彼らがクラブでプレイしている音楽が選曲されます。多くの場合、DJ達は様々なレーベルのトラックを使ってミックスします。そのことは各トラックの権利を持つレーベルからライセンスしなければならないということを意味します。彼らの許諾を得て、トラックを収録するためにどれくらいの金額を支払うべきなのか同意を取ります。まれにレーベルが許諾を与えてくれない場合もあるかもしれません。私達はその考えを尊重してきました。

レーベルは、どこでどのようにトラックを売るのかを決める権利も持っています。UKとアイルランドでだけトラックをデジタル配信する権利を与えてくれるレーベルもあります(トラックが様々な国で様々なレーベルから販売されているような場合に)。各ミックスは複数の音楽の断片のコレクションなので、そのことは、ミックス全体が個々のトラックによって制限を課されることを意味します。もし1トラックがUKとアイルランドだけに制限されたら、それはミックス全体に適用されます。Beatportのようなサイトで、UK以外の人々が私達のミックスを見ることができても買うことができないのは、こういう理由なのです。皆さんが不満に感じているだろうということは私達も理解しています。しかし、わかってもらえ始めていると願っていますが、この状況は私達の望んだものではなく、私達に課せられたものなのです。

iTunes: their rules

あなたは私達のミックスシリーズの半数以上をダウンロードストアの大部分で見つけることができるでしょう。嬉しいことに、それらは厳密に「ミックス」として売られています。Juno DownloadやBeatportのようなサイトでは、ミックスをひとつの連続的なトラックとして販売することを選んでいます。一方で、その他のAmazonBleepのようなサイト(他のダウンロードストアでも売ってます!)は、ミックスを分割して独立したトラックとして売ることを選んでいます。そうすれば聴いているトラックのタイトルを確認することができます。トラックはミックスが分割されている部分で唐突に終わり、前後のトラックが混じっているので、それらのトラックは個別に販売するのには適していません。だからそれらのミックスは「Album Only(アルバムのみ)」で売られているのです。

あなたが最近コンピューターを使っているのなら当然気付いていることでしょうが、現在、iTunes Storeはデジタルなベヒモス(訳注:旧約聖書に登場する巨獣)としてほぼ10年に渡ってダウンロード市場に君臨しています。世界の音楽消費の方法を変化させたAppleのビジネスモデルは、アルバム全体よりも個別のトラック販売を重視しています。事実、大部分のトラックを個別にダウンロードできるようにしなければ、iTunesでアルバムを販売することはできません。このシステムはミックスを単にミックスとして販売するのには適していません。ミックスアルバムをiTunesで販売する資格を取得するためには、DJが一つの連続したトラックとして意図して制作したものに加えて、ミックスしていない個別のトラックを収録しなければいけないのです(そして、大部分のトラックを個別にダウンロードできるようにするのです)。

Our mixes: our stance

数年前、このフォーマットの要求条件を満たすことは、私達のミックスシリーズのヴィジョンとは相容れないと考えました。fabricとFABRICLIVEは、トラックを縫いあわせて連続したひとつのものにするという、アーティストの手仕事を讃えるためのものです。そこにはストーリーを織り込む独特の方法があり、それは個々の構成要素よりも重要なのです。

数年に渡ってiTunesに私達の考え方を伝えてミックスを他のサイトのように「Album Only」で売ることを認めさせるように試みてきました。しかし、あのような巨大企業に、ビジネス上の信条の一つへの例外を認めさせるのは、狭いターゲットの市場を相手にするインディーレーベルの私達にとっては大きすぎる仕事だったことが証明されました。そして、私達は顧客からの要求に応えて、フォーマットの要求条件は私達の望む提供方法とは全く適合していませんが、できる限りiTunesの判定基準を満たし、今後のfabricとFABRICLIVEのミックスをiTunes Storeで入手できるようにすることを決断しました。

Rocks, hard places and artistic freedom

ほかにもiTunesの規定はトラックをライセンスするレーベルの決断に影響を与えています。非常に頻繁にあることですが、私達のシリーズにミックスを提供してくれるDJ達は、リリースがかなり先の未発表曲やミックスのためだけの新曲を収録してくれます。私達はそれを大きな特典だと思っています。しかし、アルバムダウンロードの一部としてミックスしていないフルサイズのトラックを収録することを求めるiTunesの要求条件があると、私達のミックスをリリースするときに、事実上個々のトラックをデジタルで公的に「リリース」してしまうことになります。それらの将来のリリーススケジュールへ影響を与えるため、トラックのデジタルリリースを見合わせたいレーベルは、このような特典的なトラックや、その他の全てのトラックを収録する権利を絶対に認めてくれないでしょう。地域制限がある場合のように、このような1トラックへの判断はミックス全体に適応されます。

iTunesの要求条件と、音楽の使われ方を判断するというレーベルの持つ権利の間に囚われた私達には選択肢が残されました。他のミックスコンピレーションと同じように、iTunesで売ることのできない曲を使ったミックスを作ることを拒否するか、iTunesで販売できないという犠牲を犯してもそういったトラックを収録するか。

こうしたジレンマに直面して、私達は後者のルートを選びました。アーティストの作ったミックスの持つヴィジョンを提示するために、可能な限りの創造的な自由を彼らに許可することが最も重要です。そして、幸運にも入手できた先行トラックや独占トラックは私達のミックスシリーズに大きな力を与えてくれていることを認識していますし、それらを拒否することは、結局はミックスを面白味のない「特別」さの薄いものにしてしまうでしょう。

Matthias Tanzmannのfabric 65の場合は、今後私たちは常にiTunesでミックスを入手できるように努力していきますが、寛大にも、必要なフォーマットでトラックを販売する権利をレーベルが認めてくれました。しかし、これは今後のすべてのミックスで可能なことではないでしょう。ですから、もし今後あなたの求めるミックスのデジタル版が(iTunesに)見つけられなかったら、私達のサイトや他のダウンロードストアを探して下さい。

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以上です。長かった…。「なるほど、そういうことだったのか」という話が色々ありました。

よくiTunesでUnmixed(ミックスされていない)なトラックとミックス音源がセットになって売られているのは、そういう売り方が流行しているとか、よく売れるからとかじゃなくて、iTunesの販売基準をクリアするための策だったのですか。このスタイル、ミックス自体やミックスの作者に全く興味なくて使われている曲だけを単品でダウンロードしたい時なんかには嬉しいんですけど、ミックスを作ったDJ本人は複雑な心境なんじゃないのかな、とはよく思ってました。

未発表曲や新曲のDJMixへの収録も難しい問題です。トラックを使われる側の人が「ミックスするなら是非使って欲しいけど、単体で売るとなると話は別」と考えるのもまったく納得できる話です。ミックスに使用する権利とコンピレーション盤に収録する権利を両方とも得ないと、iTunesでミックスを配信することができないというのは、未発表曲で個性を出すタイプのDJにとっては高いハードルなのではないでしょうか。

日本はまだデジタル配信自体が英米ほどに普及していない(らしい)ので、iTunes Storeで売ることがどれくらい大切な事なのか、理屈ではわかっていても肌感覚ではピンとこない部分もあって、「BeatportとかBleepに置いてるならそっちで買うし、別に無理してiTunesに置くこと無いんじゃないの」とも思ってしまいますが、英米の感覚では、少々ポリシーを捻じ曲げてでもiTunesに置かなくてはいけない状況になっているのかもしれません。

■ 関連サイト

News : 2012年09月13日 13:26

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