2013年01月08日 09:55

「ジョージ・クリントンが代表曲4曲の著作権を失った」というニュースについて調べると闇が深かった

「Hardcore Jollies」「One Nation Under A Groove」「Uncle Jam Wants You」「The Electric Spanking of War Babies」。

アメリカの芸能ゴシップサイトTMZが「George Clintonがファンクの名曲を借金100万ドルのために差し押さえられる」という記事を1月6日に掲載しています(→TMZの記事)。このTMZの記事だけをソースとして、多くの音楽ニュースサイトが「ジョージが著作権を手放した」という記事を掲載しています。

Hardcore Jollies自分はこれらの記事を読んで、2点の疑問が浮かびました。まず「George Clintonはそれらの曲の権利を所有していたのか?」という点。George Clintonは昔の曲の権利を署名の捏造などの手段で騙し取られていて、アルバムが再発されようがサンプリングされようが、彼の元には一銭も入ってこない、というような発言をインタビューなどで度々していたので、彼は権利を所有していないものと思っていました。

2点目の疑問は、なぜ「Hardcore Jollies」「One Nation Under A Groove」「Uncle Jam Wants You」「The Electric Spanking of War Babies」という4曲の権利を手放したのか。なぜこの4曲なのかという点です。不思議なことに、アルバムのタイトルトラックばかりです。

ということで、ネットで調べられる限りの情報を調べてみたところ、George Clintonの関係者(本人?)が開設しているブログ「flashlight2013」がTMZの記事に応える形で訴訟の背景を説明しており(→flashlight2013)、くわえて、著作権関係のニュースブログ「music law seminar」が中立的な立場で訴訟を記事にしており(→musiclawseminar)、それらを読んで、この件が実に複雑で闇の深い話であることがわかりました。

話せば長くて複雑で法的な話なのですが、理解できた範囲で話の流れをザッとまとめました。100%正確に把握できている自信は無いので、英語を読める方は原文にあたって下さい。

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2005年ごろにGeorge Clinton(以下GC)が著作権方面の裁判に強いという弁護士事務所Hendricks & Lewis(以下H&L)の評判を聞きつけ、彼らを雇って作品の権利を取り戻す裁判を開始。Warner時代の契約書がコピー&ペーストなどの手段で捏造されていることを立証し、元マネージャーから「Hardcore Jollies」「One Nation Under A Groove」「Uncle Jam Wants You」「The Electric Spanking of War Babies」の4作品のマスター所有権を奪還する。

2007年、Casablanca時代の作品の権利奪還を求めてUniversal相手に裁判を起こすが(GCの主張によると、この裁判はH&Lの独断で始められたもの)、証拠書類(Parletの契約書)を巡ってGCとH&Lの間に見解の相違が起こって対立、H&Lは途中で裁判から下り、GCは別の弁護士を雇って裁判を続けるが敗訴。

2011年にH&LはGCに未払いの訴訟費用の支払いを求める裁判を起こし、GCは敗訴、160万ドルの支払いを命じられる。すでに100万ドルは支払った(とGCは主張)が完済には至らず、2005年の裁判で取り戻した曲の権利を含めた彼の収入すべてが差し押さえられた。未払い分が完済されれば作品の権利はGCに戻される。

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まず「権利を所有していたのか?」という疑問については、2005年にGeorge Clintonはワーナー時代の4枚のアルバムの権利を取り戻していたようです(→当時のニュース記事)。

The Electric Spanking of War Babies「なぜこの4曲なのか?」という疑問については、TMZをソースに記事を書いている多くのサイトが「4曲」の権利が譲渡されたという書き方をしているものの、flashlight2013の説明を読むと、実際は「4アルバム」の権利が動いたと読むのが正しいのでは?と自分は理解しました(TMZも"songs"とは書いておらず、曖昧に"jams"と書いている)。

また、自分の読んだ限りでは、この件は2011年の出来事のようで、なぜ今TMZがこの件を取り上げているのかはよくわかりません。TMZの記事とflashlight2013の記事では微妙に数字が異なっている部分があって、どっちが正確なのかは不明です。

と、このような背景です。当然flashlight2013というサイトの文章はGeorge Clinton側からの記述な上に、陰謀論的な色合いも少しあって、その点を差し引いて読んではいるのですが、実際に契約書の捏造が法廷で証明されたりしているわけで、証拠の扱いを巡って対立が起こる部分もちょっと不可解で、全てを陰謀論として片付けることのできない、なんとも闇深い世界だなと思いました。

それにしても、裁判費用160万ドルってのはすごい。日本円で1億4千万円くらい。最初は400万ドルを要求されていたという話ですから、訴訟大国の恐ろしきことよ。flashlight2013によると、H&LはJimi Hendrixの遺族やCourtney Love相手にも似たような裁判を起こして大金をせしめた過去があるそうです。

今回George Clintonは4枚のアルバムの権利を一時的とはいえ失っているわけですが、そもそも、その他の大多数の作品の権利を未だにGeorge Clintonは奪還できていないわけです(Bridgeport Musicというところが所有していてサンプリング訴訟を起こしまくっている)。アメリカのショービズ界や法曹界にうごめく魑魅魍魎の恐ろしさに背筋が凍ります。

ここ1,2年ほど、なぜかP-Funk関連の嬉しいCD再発が立て続けにあって、例えばQuazar、Brides of Funkenstein、Bernie Worrelの1st、Godmoma(→tower)、Junieの2in1(ジョージは無関係だけど名盤 →Amazon)など。この流れが訴訟と関係があるのかどうかは知りませんが、これらの作品の印税が渡るべき人達の元に正しく渡る状態に早くなってくれることを切に願っています。

News : 2013年01月08日 09:55

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