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2013年02月11日 13:59
祝Roland梯氏グラミー賞受賞 - MIDI誕生前に大量のシンセを外部コントローラーで制御していた人物とTR-808シンバル音の関係
LEO。
MIDI規格が誕生した1983年から今年で30周年ということで、Roland創業者の梯郁太郎さんと、元Sequential Circuitsで現Dave Smith InstrumentsのDave Smithさんがグラミー賞技術部門を受賞されました。おめでとうございます。
そういう節目ということもあって、今年のNAMM(アメリカで毎年開催されている世界最大規模の楽器見本市)ではMIDI30周年記念コーナーが設置され、Don Lewisという人物のデモンストレーションが行われました。
このDon Lewisという人が面白い経歴の人で、MIDI規格が登場するだいぶん前の70年代半ばに、大量のシンセ、エフェクター、ドラムマシンなどを、改造したHammondの電子オルガンからコントロールする独自のシステム「LEO(Live Electronic Orchestra)」を作って、ワンマンバンドとしてナイトクラブなどでライブ演奏していた人だそうです。Quincy Jones、Sergio Mendez、Michael Jacksonらの元でエンジニアやセッションプレイヤーとして仕事をするかたわら、Roland初期のドラムマシン開発にも関わっていたそうです。
NAMM2013で行われたLEOのデモンストレーションの映像です。一番上の動画の曲はWeather Report「Birdland」です。
LEOに使われている機材は、Oberheim SEM4台、ARP 26002台、Pro-Soloist、Space Echo RE-201、TR-808、Hammond Concordeなどなど。言うなれば、改造したエレクトーンをMIDIコントローラーのように使って、手元から周囲に置かれた電子楽器を切り替えて操作しているわけです。ノートパソコンどころかMIDIすら登場する前に、手動でableton LIVEをやろうとしていた男。総重量2トンだそうです。
ニュースサイトThe VergeによるDon Lewisへのインタビュー記事の中で、彼がRolandで開発に関わることになった経緯や、こぼれ話などを披露しています。拙訳。
■ How the 808 drum machine got its cymbal, and other tales from music's geeky underbelly(the verge)
ドンはハモンド社に雇われて、ショーでハモンド社の商品のデモ演奏を行なっていた。彼はAce Toneのリズムボックスをパーカッションとして使っていた(Ace Toneの製品はハモンド社によって流通されていた)。「私はAce Toneを死ぬほど改造していた。私の演奏スタイルに合うリズムがないので、全てのリズムを変更していた。ハモンドのエクスプレッション・ペダルを接続してアクセントをつけられるようにしていた。当時は誰もそんなことをしていなかった。ショーの後に日本から来たという男が近づいてきて、第一声こう言った。『私の作ったリズム装置のようだけど、私の作ったリズム装置ではないみたいな音だ!どうやってるんだ?』」それがAce Toneの社長、梯郁太郎だった。
「私は中を開けて、中のダイオードやら何やらを見せた。私達はすぐに友達になった。私は彼にプログラムできるリズム装置を作るように何年もかけて提案した。なぜって、ハードウェアの中身をいじってリズムパターンを変更するのに疲れたからだ。大変なんだ!」梯は提案に耳を傾けていた。1972年に梯はRolandを設立し、ドンを雇った。彼の働いたプロジェクトは最終的にCompuRhythm CR-68を生み出し、1980年には、現代のダンスミュージックの全歴史を築いたドラムマシン、あのTR-808を生み出した。
70年代後期にRolandの東京オフィスを訪れたドンは、チーフエンジニアの菊本忠男と働いていた。「その日、彼は808の試作用基板を持ってきて、中がどうなっているか私に見せてくれた。そうしたら、彼は基板をぶつけて茶をこぼしてしまった。彼が思いがけずスイッチをいれると、シュー(pshh)という音が鳴った。その音を再現する方法を見つけ出すのに数ヶ月がかかった。その音は808のクラッシュシンバルの音になった。他にあんなものはない。あれにかなうものはない。」
お茶をこぼしたおかげで、あの素晴らしいTR-808のシンバルの音が生まれたと。ちょっと話が盛られてるような気がしないでもないですが、Rolandの歴史についての貴重な裏話として興味深いです。
最近は景気の良い話の聞こえてこないRolandですが、わざとD-Beamの基板にお茶をこぼす勢いで、次の30年の更なる活躍をお祈り申し上げます。
News : 2013年02月11日 13:59
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