« 2人のテクノの巨人によるライブ感満載なミニマルダブ / Borderland - Juan Atkins & Moritz von Oswald | メイン | YouTubeに大量アップされた70-80年代オランダの音楽番組「TopPop」に見る口パクのあれこれ »
2013年08月05日 15:00
最近起こったサンプリングにまつわる音楽事件2つ - The WeekndとJulio Bashmore
16bit事件簿。
両方とも海外のサイトではちょっと前に話題になっていた事件なのですが、日本でもどこかの音楽ニュースサイトとかで取り上げられるだろうと思って放置していたら、自分の観測内ではどこも取り上げていないようなので、軽く取り上げてみます。アフィリエイト収入にもアクセス増加にもつながらないタイプの音楽事件です。
■ The WeekndとPortisheadのケース - サンプリングされたくない場合
先月アメリカのR&B系アーティストThe Weekndが新アルバム「Kissland」からの先行シングル「Belong To The World」を発表、これがPortisheadの2008年の曲「Machine Gun」のビートをサンプリングしているということで話題となりました。
これに対してPortisheadのGeoff Barrowは、以前The Weekndからサンプリングの許可申請があったものの、これを承諾しなかったとTwitterで明かし、「サンプルした相手の判断を尊重するべきだ」「金が欲しいのではなく、ビートを返して欲しいだけ」などと、承諾していないのに曲がリリースされたことに対して怒りのコメントを投稿しました。
■ The Weeknd Sampled Portishead Without Permission, Says Geoff Barrow(pitchfork)
こうして「Belong To The World」が無許可サンプリングだったことが明らかになって、ひとしきり音楽ニュースサイトで話題になった翌日、Geoff Barrowは「The Weekndは、サンプルを使っていない、あるいは“Machine Gun”とは似ていないから著作権を違反していないし、クレジットの必要も無い、と言っていたそうだ」という追加情報をツイートしました。
両曲を聴いて「“サンプリングしてない”はともかく、さすがに“似ていない”ってのは無理あるわ」と自分も思いましたが、Portishead側が法的に動くようなことには(表面上)なっていないようで、これ以降Geoff Barrowは、The Weekndファンからの「サンプリングされて注目されただけでもありがたいと思え」「Weekndのほうがいいビートを作ってる」「お前なんか昨日まで知らんかったわ」などの罵詈雑言ツイートをリツイートして遊んでいるだけです。
一方のThe Weeknd側は、問題になって以降この件にまったく反応していません。問題になる以前には、音楽サイトのインタビューで「新アルバムはPortisheadからインスパイアされていて、Portisheadのプロデューサーに手紙を書いた」という趣旨の発言をしています。
■ Julio BashmoreとJimmy Castor Bunchのケース - 無料ダウンロードの場合
Julio Bashmoreはイギリスのテクノ系のアーティストで、最近Jessie Wareのプロデュース(→YouTube)を手掛けたことでポップス界からも注目されている人物です。そんな彼がファンクバンドJimmy Castor Bunchの権利を侵害したことを謝罪する内容の声明文(の画像)を今年6月にFacebookに投稿しました(→facebook)。
■ Julio Bashmore Gives Official Apology For Stealing Sample(mixmag)
問題となったJulio Bashmoreの曲は「Troglodyte」というタイトルのダンストラックで(YouTubeなどを探しましたが、ブログに貼り付けられそうなものは見つけられませんでした)、Jimmy Castor Bunchが1972年に発表した曲「Troglodyte (Cave Man)」をサンプルして使っています。
このケースで珍しいのは、彼がトラックを発表した場所がSoundcloudで、曲は無料ダウンロードの形式で配布されていたという点です(厳密に書くと、12インチシングルにシークレットトラックとして収録されて少枚数だけリリースされていたことが後日発覚しますが、これがバレていたかは不明)。
Facebookに投稿された謝罪文には「私は判断を誤って、出版社や作者の許可を得ることなく(Jimmy Castor Bunchの)作品を使用し、自分のレーベルやキャリアをプロモートするために、レコーディングした作品を無料でダウンロードできるようにしました」という一節があります。彼は無許可のサンプリングで金を稼いだことを非難されて謝罪しているのではなく、無許可のサンプリングで自分自身をプロモートしたことを謝罪しているのです。
この謝罪文、とにかく「なにもかも私が悪かったです」という徹底したスタンスの、キレイな角度に頭の下がった謝罪文の見本のような文章になっていて、謝罪の他にも「いくらかの金額を、出版社と、出版社の指定したチャリティー団体に支払いました」という記述があって、金銭を支払っていることがわかります。謝罪文の公開と指定された金額の支払いという条件で、法廷に持ち込まずに和解したということでしょう。
実際にJulio Bashmoreの「Troglodyte」を聴いてみると、Jimmy Castor Bunchの曲冒頭のド定番ボイスサンプルをビートに乗せているだけという、拍子抜けするような内容の曲で、正直なところ「え、これだけでアウトで、しかもお金まで払うの?」と思ってしまいました。
権利的にヤバいサンプリングやマッシュアップの曲を、販売するのではなく、Soundcloudなどでフリーで配布するという方法は、クラブ系のアーティストの間では定番となっているリリース形態です。しかし、フリーであろうとなんであろうとダメなものはダメで、権利者に見つかったら削除は当然のことながらお金を支払うことにもなり得る、というこの事例、多くのクラブ系音楽のサイトでは、もしこの判断が法解釈のスタンダートになったら今後サンプリング音楽はどうなってしまうのか、表現が萎縮してしまうのではないか、という感じで驚きを持って伝えられています。
--
以上の2件です。どちらもサンプリングにちなんだ少し珍しいタイプの揉めごとで、誰の立場に立って考えるかで見え方が変わってくるような、どちらか一方が100%完全に善・悪と判断し辛い事例だと思いました。今後ゼロからサンプリング音楽で成し上がっていこうと野望を抱く人は、サンプリングした相手への敬意と、もしもの時に違反金を支払うための定期積み立て、キレイな角度で頭を下げる心の準備が必須なのかもしれません。
News : 2013年08月05日 15:00
ブックマーク
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL :
http://www.spotlight-jp.com/matsutake/mt/mt-tb.cgi/633