matsu & take

アルバムカバーの気の抜け方が素晴らしいプリンスの37枚目のアルバム。

このアルバムの鍵を握るのはJoshua Weltonという人です。アルバムのジャケット裏面にこのアルバム全体の共同プロデューサーとして名前がクレジットされている人物です。Wendy & Lisa、Susan Rogers、Levi、Ricky Peterson、Kirky J.など、プリンス長年の活動を通じて「パートナー」と呼べる数々のプリンスの共同制作者が存在しましたが、アルバム共同プロデューサーの称号を授かるような好待遇を受けた人は過去に存在したでしょうか。自分が記憶する限りプリンス史上初だと思います。

で、このJoshua Weltonは何者かというと、プリンスの今のバンド、3rdEyeGirlの女性ドラマーHannah Fordの旦那さんです。彼の本職はミキシング・エンジニアのようで、年齢はパッと見た感じ30前後という雰囲気でしょうか。頑張ってネット検索しましたが、過去の大きな実績やメジャーな仕事などの情報は発見できませんでした。先日ネット中継されたアルバムリリース記念パーティーの中で彼のインタビューが流れていて、Hannah Fordがバンドにスカウトされた際に、いっしょに付いて行ったらどんどん仕事をもらえてトントン拍子に、というような話を言ってたような気がします。「姉さんが勝手に応募して」「友達のオーディションに付いて行ったら」…（追記：年齢24歳でした →Link 若い！）。

この「Art Official Age」、確かにプリンスの近作とは異なったテイストがあって、エフェクトのかけ方や、シンセ、ドラムの音色などのデジタル的な作業の部分にそれが強く現れていると感じます。おそらくこの部分にミキシングエンジニアで共同プロデューサーのJoshua Weltonのセンスが生かされているのでしょう。そこを現代的な若い感覚と取るか、流行をなぞっただけの平凡な感覚と取るか、どちらと取るかでアルバムの評価が○Ｘ全く割れるんじゃないかと思うのですが、自分は、迷いに迷って○の札をあげる、いやあげない、やっぱりあげます。

その葛藤はアルバム１曲目「Art Official Cage」に象徴的で、レイヴホーンまで鳴り響く過剰な盛り込みには「あかん、これはあかんで…」と頭を抱えてしまうのですが、過去のプリンスの曲には無かった音の重ね方やメロディーがサッと差し込まれてハッとする瞬間が何度もあって、それが良かったり悪かったり普通だったり、チャレンジがある事自体は素晴らしいし歓迎したい、でも…、と、このように曲の最初から最後まで激しく感情を揺さぶられます。アルバム全体を通じて多かれ少なかれこんな感じです。チャレンジが文句なしに良いほうに出ていると感じたのは「Clouds」「U Know」「Time」あたりの曲でしょうか。

なぜプリンスがJoshua Weltonに共同プロデューサーの肩書を与えたのか、実際に二人がどういう作業をしていたのかわからない事には何とも言えませんが、二人で作ったこのアルバムを久々の古巣ワーナーからのメジャー流通アルバムとしてリリースしようというのですから、プリンスが彼から受けた刺激はとても大きなものだったのでしょう。

久々のメジャー流通アルバムという点で言えば、久々に「バンバン売ってやるぜ」というギラギラしたものが感じられるアルバムです。ネットのミーム（日本でいうところの2ちゃんねる用語的な？）にインスパイアされて曲を作ったり（「This Could Be Us」）、プリンスのモノマネをネタにしていたコメディアンをシングルのアートワークに起用したり（「Breakfast Can Wait 」）、近作では宗教的で清らかだった歌詞も今作では性的なものを感じさせる曲があったり（「Clouds」）、ずいぶん外側に開かれたタイプのアルバムになっていると思いました。期待通りにバンバン売れて、日本でも売れて、どこか景気のいい会社が日本に呼んでくれることを切に願います。

ちなみに、気の抜けたアルバムカバーの、3つ目のプリンスの背後にデザインされた4枚のレコード盤は、レーベルのデザインを見る限り「Purple Rain」（か、その時期の12インチ盤）だと思われます。「Purple Rainの再発のほうもしっかりやってるから楽しみにしときや」というメッセージだと勝手に解釈して楽しみにしておきます。