2014年06月17日 23:47

Caustic Window未発表アルバム配信開始で気付いたこと、驚いたこと、残念なこと / Caustic Window LP

クラウド・ファンディング。

[音楽/レビュー]
タイトル : Caustic Window LP
アーティスト : Caustic Window
レーベル : Rephlex
リリース年 : 1996/2014

幻のCaustic Windowのアルバム「Caustic Window LP」が6月17日に配信開始されました。事の顛末について、くわしくは過去の記事をどうぞ(幻のCaustic Window未発表LPが超高額でDiscogsに出品され、奴らが動き、山が動いた)。

内容は期待以上でした。特にCaustic Windowのやさしい面が発揮されているように感じました。勝手なイメージですけど、Caustic Windowというより、Analogue BubblebathやPolygon Windowの雰囲気を感じる曲が多くありました。ドラムンべース期以前の作品が(も)大好きな者にとって、昔の作品に特徴的なテープのノイズやザラザラした残響音がたっぷり聴ける、たまらない内容です。Joyrexさんをはじめ、今回のプロジェクトに関わったすべての人々に感謝です。

音源の配信が開始されて、曲の内容以外に、付随的な情報などで気付いたことや驚いたことなどを、ちょっとまとめておきます。

リリースが予定されていたのは1994年ではなく1996年だった

どこの情報が元だったのか、今となっては不明ですが、「1994年にリリースされる予定だったアルバム」として広く知られていたこのカタログナンバーCAT023のアルバム、実際には1996年の6月にリリースされる予定だったそうです。今回配信されたMP3に埋め込まれたメタデータを用意したのはリチャード本人なんだそうで、そのメタデータのリリース年欄には「1996」と入っており、Rephlexの書類にもそのように記述されていたとJoyrexさんが報告しています。

「...I Care Because You Do」が95年4月リリースで「Richard D. James Album」が96年11月リリースです。 Rephlexから「Mike & Rich」が出たのがちょうど96年6月です。

全曲にしっかりしたタイトルがあった

リチャード自身が自分のアーカイブを掘り返して、当初のリリース時に予定されていた曲タイトルを見つけてきて、それが曲名欄に入力されています。

flutey
stomper 101mod detunekik
mumbly
popeye
fingertrips
revpok
afx tribal kik
airflow
squidge in the fridge
fingry
jazzphase
101 rainbows ambient mix
phlaps
cunt
phone pranks

各単語の頭文字が大文字になっておらず全部小文字なのもリチャードの意向で、Joyrexさんはメタデータと曲名をさわらないように釘を刺されたと掲示板に書いています。

これまで「Mutley」だとされていた曲が、実際は「mumbly」だったことが発覚しました。MutleyとMumblyはどちらも「チキチキマシン猛レース」のキャラの名前で、声サンプルの一部もそこから取られているそうです。

A,B,C,D面ではなくA,B,C,G面だった

レコード盤のD面がG面と表記されています。なぜなのかはわかりません。ちなみに「Analogue Bubblebath 4」のレコード盤でもB面がN面と表記されています。

「101 rainbows ambient mix」はSAW 85-92のボツトラックだった

このアルバムのオリジナル盤の所有者の1人、μ-ziqことMichael Paradinasが過去にこのアルバムについて全曲レビューをしていて、その中で「101 rainbows ambient mix」について、「Selected Ambient Works 85-92」からreject(除外)された曲だと明かしています。もしもこのジャーマン・プログレのようなノンビートの大曲がSAW 85-92に収録されていたら、アルバムの雰囲気は全然違うものになっていたでしょう。

「いたずら電話」の手口が被害者によって明かされた

最後の曲「phone pranks」は、前半Mixmaster MorrisとScanner、後半CylobとMichael Paradinasが、それぞれなぜか電話がつながって、互いに相手が誰だかわからずにギクシャクと会話する様子を録音して編集した曲なのですが、そもそもなぜ電話がつながったのか、今回のリリースに合わせて、いたずらの被害者であるScannerが1枚のファックス画像を公開しています。「電話番号を忘れたから今電話ちょうだい」。

国内外の音楽メディアが違法アップロード動画を貼りまくった

ファイルの配信開始を伝えるメールが送信されたのは日本時間で6月17日の深夜2時頃で、自分の場合は翌朝にメールチェックをするよりも先にYouTubeに全曲が違法アップロードされているのを見つけました。それは予想の範囲内でしたが、ありとあらゆる国内外の音楽サイトが「ストリーム:Aphex Twin幻の未発表アルバムがネット上で全部公開」みたいなタイトルで、YouTubeの違法アップロード動画(ワンクリックで非公式動画とすぐわかる)をアルバム全曲ぶん貼りつけた記事を作ってアクセス数を稼いでいるのには、驚いたというよりも、あきれました。

謎の国のサーバー発のアンダーグラウンドな個人ブログとかではなく、レコード会社の広告を貼り付けてるような、ライターや社員を大勢抱えてる日英米の音楽サイトが、アルバムのリリース日に(!)、そのアルバムの違法アップロード音源をページに全曲貼り付けて、「はい、アルバムが全曲ストリームで聴けます」だなんて、他に例を知らない出来事です。

なんでこんなことになっているんでしょう。小レーベルだから怒ってこないと思ってるのか、店舗に並ばない音源だから権利侵害しても誰も損しないと思っているのか、新作とはいえ昔の曲だからリリース済みの昔の曲のように扱っていいという理屈なのか、音楽メディアに広告費が入らないからなのか、“ファンによるクラウドファンディング成功”を“パブリックドメイン化成功”と勘違いしているのか、大手の“誤報”に乗っかったのか。

「どうせリリース直後に音源がネット流出して、大手の音楽サイトが記事に貼り付けて聴かせてくれる」と皆が考えるようになってしまうのは、今回のクラウドファンディングの動きに続こうと考えている人達にとって大きな障害になってしまうんじゃないでしょうか。何か対策が必要になるでしょう。今回のプロジェクトは最初からずっとワクワクの連続だったのですが、最後にケチがついたような形で、ちょっと残念です。

Review : 2014年06月17日 23:47

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