2010年06月03日 19:55

別世界で膨張する想像を超えた蛇足 - 運命のボタン

ボタンひと押し9265万円(本日のレートで計算)。

[映画/レビュー]
タイトル : 運命のボタン(原題:The Box)
製作・脚本・監督 : リチャード・ケリー
原作 : リチャード・マシスン
上映時間 : 115分
出演者 : キャメロン・ディアス、ジェームズ・マースデン

ネタバレは書いていないつもりですが、一応注意を。

お話としては完全に失敗作で、ミステリーの伏線はうまく回収されず、見終わった後にスッキリ感はまったくありません。単に脚本が悪かったか、出資者からの横槍が入ったかのどちらかでしょう。ネット上の感想を読んでも散々なものばかりです。子持ちの主婦役とはいえ、キャメロン・ディアスの「年相応」感も鑑賞者共通の驚きだったようです。

原作は「アイ・アム・レジェンド」「トワイライトゾーン」「激突!」などで有名なアメリカのSF/ホラー作家のリチャード・マシスン。「夫婦のもとに届いた謎のボタン、押せば100万ドルがもらえるが、どこかで見知らぬ誰かが死ぬ」という筋は原作に従ったもので(原作は5万ドル:80年代にTVで映像化された際は20万ドル)、前半は「トワイライトゾーン」さながらに展開していくのですが、中盤から話は原作を離れて大きく大きく膨らんでいきます。自分はこの中盤あたりで「ひょっとするとこの映画、めちゃくちゃ面白いのかも?」と期待が高まりました。しかし、膨らんだストーリーの大半は終盤で放り出され、最後には小さく小さく収束してしまいます。映画終了後は「あのシーン意味あったの?結局どういうことなの?」などハテナの嵐。

The Box ポスター 画像映画全体を包む重苦しいムードや、意味があるのか無いのかよくわからない不思議な感覚の映像自体は、「ドニー・ダーコ」のリチャード・ケリー監督の作品であることを思い出させる、とても魅力的なものです。80年代を舞台にした「ドニー・ダーコ」でJoy DivisionやEcho & the Bunnymenなどの音楽を使って時代をうまく表現していた監督は、今作でも70年代のアメリカを、当時のヒット曲や年代物の車などを使って丁寧に描いています。

また、オリジナルスコアはArcade FireのメンバーのWin ButlerとRégine Chassagne、あと元Final FantasyのOwen Pallettの3人(3人ともカナダ人)が担当しています。これが意外にも伝統的な作法を守って作られた、オーケストラを使ったミステリー映画らしいスコアで、映画の重い雰囲気とマッチしていてとても素晴らしかったです(残念ながらサウンドトラックの発売は無し)。

ミステリーとしてこの映画を見ると、やはり失敗作と言わざるをえないのですが、メジャーのフィールドの中で変な映画を作ってやろうという大きな意気込みは、中盤の大いなる蛇足部分から伝わってきましたし、そういう映画は大好きです。そこに映像の面白さや音楽の良さを加えると、まぁ、そう悪い映画ではなかったな、見ておいてよかったかな、と自分は感じました。

YouTubeで1985年に「新トワイライトゾーン」で映像化された際のものを見つけました(英語ですが)。

ボタンの造型が同じです。20分弱、お金をもらうところで終了。映画はここから1時間半続きます。

リチャード・ケリー監督の次の仕事は、ナタリー・ポートマン主演で映画化される「高慢と偏見とゾンビ」のプロデュースのようです。

■ 関連サイト

Review : 2010年06月03日 19:55

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