2012年11月09日 17:42

発売前アルバムの全曲ストリーミング試聴って実際どうなの?という疑問にレコード会社の人達が回答

当世アルバムプロモーション事情。

まだ日本のレコード会社がやってる事例は多くないようですが、英米では発売前のアルバムをストリーム形式で最初から最後まで全曲聴かせてしまうという、いわゆる「全曲ストリーミング試聴」が音楽アルバムのプロモーションの定番スタイルとして急速に普及しつつあるようです。自分の興味の範囲内だと、最近ではFlying Lotusや、Pet Shop Boys、Ricardo Villalobos、Neil Young、Nathan Fake、The Orbなどなど、メジャーインディ関係無く様々なアーティストがやっています。

発売直前にアルバムの全曲を丸々キレイな音で聴かせてしまうというこのプロモーション方法、数年前の感覚なら信じられないスタイルだと思うのですが、次から次へと新しいプロモーション方法が登場する現在の感覚だと、「こうやって話題を作って広く知られることがプラスになってるのかな?CD売るよりライブで稼ぐってことなのかな?」という程度には漠然と理解できているつもりではいました。でも「本当に大丈夫なのかな?」という疑問は心の片隅に残っています。

この発売前の全曲ストリーミング試聴について、イギリスの音楽ニュースサイトThe Stool Pigeonが、全曲ストリーム試聴を実施しているレコード会社にインタビューして「なぜ全曲ストリーム試聴が流行しているのか?」を分析して記事にしています。

■ Feature: Full Stream Ahead(The Stool Pigeon)

The Current Fad For Streaming Entire Albums Online Before Their Official Release Doesn’t Make Obvious Sense. So Why Are So Many Labels Doing It, Especially Independents? We Investigate.

これがかなり面白い記事なんですけど、全部をしっかりと訳すとかなり長いので、ザクザクと端折りながら要約っぽく訳しました(それでも長いですが)。細部に興味がある方は元記事にあたって下さい。

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現在アメリカでは、発売前のアルバム全体をアーティストの公式サイトやメディアパートナーのサイトを通じてストリーム形式で公開するのがスタンダードな行為となっている。あるレーベルの重役は「現在ビッグなレコードのプロモーションをする上での標準手法」だと表現する。

これまで以上にセールスをあげることが難しくなってきている現在の音楽市場で、レーベルやアーティストはどうやってストリーミングで利益を得ているのか。なぜ発売前に全部を聴くことができるのに、レコードを買うような面倒なことをする人がいるのか。

我々は自分達がリリースするレコードのクオリティを支持しています。それらを聴く良い機会があれば、聴いた人が買いたいと思うであろうという自信があります。発売前のストリーミングは関心を引きつける素晴らしい方法ですし、人々はネット上でアルバムについて語ります。我々はそれらがセールスを低下させるのよりも、予約数を押し上げるのを経験してきました。(Beggarsグループ マーケティング主任 David Emery)
注目を集めようと張り合う数多くのバンドがひしめき合う、とても混みあった市場で私達は競争しているのです。だから音楽が人々の耳に届くのであれば、どんな方法でもそれは良いことなのです。アルバム全体を聴いてくれるのなら更に良いのです。スナップショット(断片)だけでなく絵全体を見ているのですから。(レーベルMoshi Moshi 共同設立者 Michael McClatchey)

発売後のストリーミング配信がセールスの代替になっているか、という問題については、区別して考えるべき点がある。Spotifyのユーザーは非ユーザーよりも多くの曲をダウンロード購入しているという調査がある一方で、P2Pで違法ダウンロードする音楽ファンもストリーミングにはお金を使っている(ごく少額だが)という調査結果がある。

言い換えると、ストリーミングの競争相手は合法な販売ではなく、違法ダウンロードだと言える。発売前のストリーミングは、発売前にネット上に違法にリークされた音源をファンがダウンロードするのを止めさせることができる。

セールスは、音楽を盗む人々と対照的な存在の、音楽を購入する傾向にある人々のファンベースを如何に構築するか次第になってきています。もし発売前のストリーミングがハイプ(hype: 売り込み、誇大広告)が起こるのを助けてくれるのなら、音楽を盗まずに買おうという人々のファンベースの拡大に繋げることが可能です。(Ninja Tune マネージングディレクター Peter Quicke)

全曲ストリーミングの核心は、アルバムリリースにおけるレーベルの役割と関連がある。1990-2000年までの伝統的な音楽業界の論理だと、アルバムは一つだけのリリース窓口を持ち、アルバムの発売告知から店頭に並ぶまでの数ヶ月の間、レーベルが人々の関心を盛り上げることで、その結果として、発売初週の大きなセールスをもたらす。CD時代はこの方法がうまくいったが、デジタル時代になると、レーベルはリリースの流通をコントロールするのが難しくなり、多くのアルバムは公式発売される前に違法ダウンロードされることになった。

その結果、音楽業界の多くの人々は、数ヶ月先にならないと入手できない曲やアルバムをファンに小出しにする方法に疑問を感じるようになった。発売前のストリーミングは、ファンに海賊行為をさせることなく可能な限り早くニューアルバムを聴くことを許可する。これは消費者が何を聴くことが出来るのかをレーベルや小売店がコントロールする「ゲートキーパーモデル」からの脱却を象徴している。新しい音楽業界は、いつアルバムを聴きたいのかをファンが選択できるべきだと考えている。

発売前のストリーミングには他にも利点がある。メディアパートナーを通じてストリーミングする場合、アルバムキャンペーンが続く間、そのメディアと友好的な関係を築くことができる。メディア側にとっても、発売前のストリーミングによってサイトのトラフィックが増加し、ユーザーがサイトに留まる時間が長くなるので、メディアはあらゆる方法でストリーミングを宣伝する。

もちろん(発売後の)ストリーミングと同様に発売前のストリーミングを非難する人もいる。Coldplay「Mylo Xyloto」のように、(皮肉なことだが)売り上げを守るために、発売から数カ月経過するまでストリーミングをしないビッグタイトルもある。

しかし、発売前のストリーミングを行なうアルバムは増加してきている。The xxがアルバム「Coexist」で実施した「ストリームの可視化」キャンペーン(→Link)は、ストリーミングがクリエイティブになり得て、ストリーミングが定着していることを示した。

発売前のストリーミングは見事な成功を示しており、今後ストリーミングが増加することは間違いありません。だから私はそこら中でストリーミングが行われる近未来をはっきりと予見することができます。とはいっても、オンライン上ではいつものことですが、物事は常に変化しています(ので、今後どうなるかはわかりません)。(Beggarsグループ マーケティング主任 David Emery)

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以上です。

まとめると、発売前にアルバム全曲をストリーミングで聴かせても、内容さえ良ければアルバムの予約は増加し、口コミによって注目は集まり、ファンベースは広がり、違法ファイルはダウンロードされなくなり、メディアは友好的に宣伝してくれるようになるという話です。やってる人達がそう言うんだから実際そうなのでしょう。

じゃぁ日本の音楽市場でこの理論がそのまま通じるかとなると、ここは検討が必要な部分ではあると思うんですが、実験する人がもっと多くいてもいいんじゃないかとは思います。英米でビッグタイトルをストリームしているメディアといえば、アメリカだと公共放送サービスのNPR、イギリスだと新聞のGuardianです。日本に置き換えれば、NHKと毎日新聞ってところでしょうか。

ゴチャまぜにするのはおかしいかもしれませんが、ヨーロッパでSpotify、アメリカでPandoraがそれぞれCD売上げ減少の穴を埋めるほどの規模の商売になってきていて、Appleも近々iTunesでストリーミングを始めるらしいということと合わせて考えると、もう世界の音楽市場の主戦場はとっくにストリーミングに移動済みなのかな、というのをひしひしと感じました。

Text : 2012年11月09日 17:42

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