2011年11月14日 17:19

音楽にならねぇブタは、ただのブタだ / One Pig - Matthew Herbert

One Pig - Matthew Herbert「One」トリロジーの第三弾。

[音楽/レビュー]
タイトル : One Pig
アーティスト : Matthew Herbert
レーベル : Accidental
リリース年 : 2011/10

ブタの誕生から死、調理まで全過程のドキュメンタリーアルバム。

前半の曲はブタ小屋のフィールドレコーディングが中心。ハーバートいわく、動物というコントロール不能なものが録音対象だったためにイメージどおりに録音するのが難しかったそうで、不安定で無駄な音満載になったサンプル素材には、これまでのハーバートのサンプリング音楽とは違う種類の面白さがあります。ブタが亡くなって以降の終盤の曲は、いつもどおりのハーバートらしいキンコンカンコン&ポコポコしたサンプリング・ファンクです。

アルバム全体を通して曲調は少し重く、ラジオ向きとも言えず、ダンスフロア向きとも言えない、アルバムのテーマや音素材は非常に具体的ですが、聴こえてくる音は非常に抽象的。80年代のインダストリアル・ノイズ系の音楽を思い出す場面が多くありました。

アルバムの最後を締めくくる曲「May 2011」は、ブタが生まれた小屋を再訪したハーバートが亡くなったブタの思い出をギター1本で弾き語りします。「One One」収録曲のような感じです。今回「One」シリーズが3部作になったのに特別な意図は無かったそうですが、よくできたドラマの脚本のように、最後が最初に繋がって一本の輪になりました。

一人宅録ロックだった「One One」、サンプリング・クラブミュージックだった「One Club」ときて、今作を強く特徴付けるのは、ハーバートの政治的・社会運動家的な側面です。しかし主義主張の押し付けが音楽を邪魔するような事態には陥っておらず(と自分は思うのですが、賛否両論なようで)、4つ打ちキックじゃない時のハーバートが好きな自分としては、特に前半部分のワイルドなブタの咆哮と繊細なメロディーの組み合わせに痺れました。

Clash Magazineにロングインタビューが掲載されています。レコーディング時の逸話などが満載で面白かったです。興味深かった部分を拙訳ピックアップ。

■ Matthew Herbert's One Pig(Clash Magazine)

(半年をかけて計画されたブタ料理の食事会での録音について)苦労して食事会を開催したのに、その翌日に録音を担当したサウンドエンジニアが全ての音が入ったラップトップパソコンを盗まれてしまった。ブタの復讐だよ。
(ブタに名前をつけましたかと聞かれて)つけていない。ツアーバスの中でミュージシャン同士で冗談では言い合っていた。Notorious P.I.Gとか。いちばん気に入ったのはBakon。名前をつければもっとブタとの結びつきを強くすることができるかもと思ったけど、つけなかった。ブタが亡くなったときは取り乱してしまった。気持ちの良い経験ではなかったし、レコーディングを終えて以来ブタ肉は食べていない。
Bodily Functions以降に出したすべてのレコードのレビューに、少なくともひとつは「これはBodily Functionsではないし、Bodily Functionsほど良くない。これは確実にBodily Functionsパート2ではない!」みたいなのがある。そういうレコードが作りたくなったら作ることもできるけど、そいつらを打ちのめしたいという衝動がある。

イギリスの新聞Guardianのサイトでアルバムすべてをストリーム試聴することができます(→guardian.co.uk)。

■ 関連サイト

Review : 2011年11月14日 17:19

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