電子音に取りつかれた変人 / The Minimal Wave Tapes

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2010年02月23日 11:22

電子音に取りつかれた変人 / The Minimal Wave Tapes - Various Artists

The Minimal Wave Tapes Stones Throwからリリースのニューウェーブ・ポストパンク編集盤。

[音楽/レビュー]

タイトル : The Minimal Wave Tapes

アーティスト : Various Artists

レーベル : Stones Throw/Minimal Wave

リリース年 : 2010/1

試聴 : ■iTunesStore ■StonesThrow

Stones Throwの音楽性から一見程遠く思える、冷んやりとしたニューウェーブ・ポストパンクのコンピレーションは、ニューヨークのMinimal Waveという再発レーベルのアンソロジー盤です。

素晴らしいコンピレーションアルバムは、その盤に入った曲の組み合わせが新たな価値観や世界観を提示するもので、これはまさしくそれです。おもに70年代〜80年代、簡単なドラムマシンと少しだけ安くなってきたシンセサイザーを使って作られたD.I.Y.なエレポップの数々。そこには大きなスタジオも多重録音装置もないので、必然的に曲はシンプルな構造になり、人差し指だけで演奏される電子音と安っぽいリバーブの最高のコンビネーションが、コンクリート剥き出しの地下室のような冷たい質感を作り出しています。しっかりノイズ除去＆リマスターが為されていて、こうした音源にありがちな音が痩せた印象は全くありません。

収録されたバンドは、どれもこれも名前すら聞いた事ないものばかり。それもそのはずで、すべての音源はアーティスト本人が手作りしてリリースしたようなカセットテープや7インチ盤から選ばれたものです。こんなドマイナーなバンドの音源をどうやって発掘してるのかと思えば、レーベルオーナーの地道な発掘というのはもちろんのこと、インタビューによると、レーベルオーナーがラジオで毎週DJをしていて、そのトラックリストを自分の名前でGoogle検索して発見したアーティストが「他にこんなのがあるぞ」と未発表音源や貴重音源を送ってくれる、というような草の根交流が大きいそうです。

レーベルオーナーは電子音楽に人生吸い取られた冴えない中年男なんだろうな、と共感を感じつつ、うっすら自分の姿が反射して映ったモニター越しにインタビュー動画を見てみれば、そこには見目麗しい女性の姿が。

Veronica Vasicka。「Minimal Wave」というレーベルは、アーティストとのコンタクト、マスタリング、アートワークなど、すべて彼女がやっているそうです。Peanut Butter Wolfは彼女の電子音楽への情熱を賞賛しています。

■ Peanut Butter Wolf on Minimal Wave（Stones Throw）

ヴェロニカはこうした音楽にとても情熱を注いでいる。Egonにとっての60年代deep funk、Dam-Funkにとっての80年代boogieと同じだ。取りつかれた変人だよ！ずっとこういう音楽の（コンピレーション）アルバムを出したいと思っていたけど、ヴェロニカのように自分よりうまくできる人と競り合いたいとは思わなかった。

Minimal Waveレーベルからのリリースはすべてアナログオンリー。今回Peanut Butter Wolfは、Stones Throwでレーベルのベスト盤的なものを作って、CDやデジタル配信などすべてのフォーマットでリリースすることで、Stones Throwのリスナーにこういう電子音楽を広げたい、と彼女を口説き落とすことに成功し、このコラボレーションが実現しました。

このアルバムの発売に合わせて、オーナーのMix音源が2つ公開されています。