2013年01月20日 21:38

機械の手を持つロボコップ風のテクノミュージシャンが超音波で復讐する96年米映画「Vibrations」を見た

まだまだ世の中には凄いものがたくさん埋もれている…。

先日、ボケーっとTwitterを見ていたら、海外のテクノ系アーティストや音楽メディアが下の動画をリツイートして盛り上がっていました。動画のタイトルは「Do you know anything about techno?(あなたはテクノについて何か知っていますか?)」。

映画かテレビかの一場面のような映像です。いかにも90年代っぽいファッションの青シャツの男が「Do you know anything about techno?」と尋ね、金髪の男が「No」と答えると、青シャツの男は「Watch」と言って、おもむろにキーボードを演奏しはじめます。演奏中「galactic ecstasy」「sonic grooviness」「hardcore neuronic mutilation」など、いかにも90年代テクノカルチャーな言葉を交えながらテクノとは何なのかについて熱く語りますが、演奏されている音楽はテクノというよりも高級エレクトーンのデモンストレーションのようです。

「これはどえらい映像を見てしまったな」と思って映像の出どころを調べると、動画のコメント欄に「これは映画"Vibrations"の一場面で、事故で手を失ったミュージシャンがレイブカルチャーと出会い、ロボコップのような衣装で究極のレイブトラックを演奏する物語だ」というような理解不能な説明が書かれていました。ジョークかなとも思いましたが、念のため調べてみると、映画「Vibrations」、本当に存在しました(→iMDb)。

「Vibrations」は1996年のアメリカの映画で、劇場公開作品ではなくビデオ作品。残念ながら日本ではソフト化されていないようですが、けしからんことに、YouTubeに映像が丸々アップロードされています(→YouTube)。おまけにYouTubeには104分の「Vibrations」を2分半にまとめた動画というのもあったので、そっちを貼っておきます。

あらすじはこんな感じです(気にする人がいるとは思えませんが、一応ネタバレ注意)。

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vibrationsアメリカの郊外でバンド活動する主人公のロッカー、T.J.。レコード契約のオーディションを受けるために車を走らせていたところを不良の一団にからまれ、ショベルカーで襲われて両手の手首から先を失う。自暴自棄となったT.J.は故郷を離れて都会でホームレス生活を始める。ある日、寝泊まりするために廃工場に忍び込んで寝ていると、夜中にうるさい音楽が聴こえてきて目を覚ます。なんとその廃工場ではレイブパーティーが行われていた。T.J.はカルチャーショックを受け、パーティーで知り合った仲間達と交流を深める(ここで上の「Do you know anything about techno?」のシーン)。

仲間達のパーティーを手伝うことにしたT.J.、パーティーのフライヤーを置いてもらうために入った楽器店で自動演奏ピアノを見て「これだ!」とひらめく。都合よく仲間の中にいた鉄鋼技師とコンピューターオタクの力を借りて、コンピューター内蔵のサイボーグ・ハンドを完成。そしてCyberstormと名乗り、ロボコップとダースベーダーを足して3で割ったような衣装を着た謎の覆面アーティストとしてパーティーのステージに立つ。ライブは大盛り上がり。Utah Saints、U96、Sven Vathらと共にツアーに出たCyberstormのライブは各地で評判を呼び、ついにはイベントでメインアクトを務めるほどの存在に。そして故郷の街にライブのために戻ってくる。

故郷でのライブのリハーサルを終えて会場を出ようとしたT.J.、ライブを警備する一団が彼を襲って手を失わせた不良達であることに気づく。T.J.はオープン前のライブ会場に忍び込み、警備員の控え室に何やら仕掛けを施す。そしてCyberstormのライブが始まる。最先端のテクノミュージックで会場が熱狂の渦に包まれる中、ステージ上のCyberstormは演奏しながら足元に置かれた謎のスイッチをオン。すると控え室に集まっていた警備員達は耳を押さえて苦しみ始める。なんとT.J.は控え室の空調の中に音響装置を隠し置き、ライブ演奏された超音波を警備員に向かって大音量で鳴らしていたのだった!不良達は逮捕され、ライブは大成功、めでたしめでたし。

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Cyberstormに扮した主人公T.J.が初めてライブ演奏するシーンの完全版の映像はこちら。

圧巻です。

今でこそDaft PunkやらDeadmau5やら、かぶりものをトレードマークにしたテクノアーティストが大勢いますが、Cyberstormはその先駆けと言えるでしょう。問題があるとすれば、Cyberstormが演奏している音楽があまりテクノには聴こえないというところです。ちなみにDaft Punkがロボットになったのは1999年。

監督・脚本は「バッファロー'66」「アメリカン・サイコ」などで製作総指揮を務めたMichael Paseornekという人物(監督作品はこの「Vibrations」のみのよう)。主人公のT.J.を演じているのは、テレビドラマ「ツイン・ピークス」でハーリー役を演じたJames Marshallで、ヒロインを演じているのは、テレビドラマ「サマンサ Who?」主演のChristina Applegate。808 StateやUtah Saints、Sven Vathなど、当時アメリカのメジャーレーベルが権利を持っていたらしき曲が映画の中に使われています。

アメリカのレコード会社がChemical Brothersあたりの成功をきっかけにヨーロッパのテクノを本格的に輸入し始めるのが1996年頃のことなので、「Vibrations」はそうした動きの中でお金が動いて制作されることになったのではないでしょうか。しかし、あまりにも早すぎました。あまりにも早すぎて、テクノが一体何なのか、肝心の作ってる人達がよくわかっておらず、このような世紀のボタンの掛け違えが起こってしまいました。

「Do you know anything about techno?(テクノについて何か知ってる?)」のセリフは、何もわからないままにテクノの映画を作ることを任されてしまった映画制作陣の心の叫びだったのかもしれません。

Text : 2013年01月20日 21:38

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