2015年02月02日 22:07

Aphex Twin(user48736353001)未発表曲の大量公開祭についての覚え書き

「fly away babies, good luck!」

先週の1月26日頃から始まったSoundcloudのアカウントuser487363530(後にuser48736353001に移動 →Link)によるAphex Twinの未発表曲の大量アップと、それに続く全楽曲の高音質MP3でのダウンロード解禁に沸きに沸いているRichard D. James(以降RDJと省略)ファン界隈ですが、Aphex Twinの未発表曲が大量にアップされたというインパクトがあまりに強すぎて霞んでしまっている、今回の出来事の経緯や、曲公開で新たに判明した情報、はみ出しニュース的な小ネタなどを忘れないうちに記事にまとめておこうということで、いくつか下に書いておきます。

■ 確実にuser48736353001はRichard D. Jamesだ

これはもう疑惑とか可能性とかういうレベルじゃなくて、user48736353001の背後には確実にRichard D. Jamesがいます。そして、アップされているのはRichard D. Jamesの作品です。最初に報告された確実な証拠は、user48736353001がuser487363530だった時に一番最初にアップした曲「8 utopia」が、すでに2010年のライブで披露済の未発表曲だったということです(→YouTube)。発見したのは、毎度おなじみのIDM/エレクトロニカ系音楽のファンが集うBBS、We Are The Music Makers(WATMM:→Link)の住人のHerr Janさん。

その他にも証拠は(結果的には)いろいろあって、「8 utopia」同様にライブで発表済みの未発表曲が複数あったり、旧友Mike Paradinasがコメント欄で「92年にこの曲を聴いた時からリリースされるのを待っていた」と発言していたり、リリース済みの作品と全く同じ音色やサンプルを使った曲がたくさんあったり、過去に流出していた未発表曲の高音質版(後述)があったりすることです。Warp等の権利者がきわどい曲の削除を求めていないのも証拠の一つと言えるかもしれません。

■ user48736353001の正体を突き止めたのはWATMMの人達

今回のSoundcloud祭の出発点は、Aphex Twinが自身の公式Soundcloudアカウントに投稿した「diskhat ALL prepared1mixed [snr2mix]」という曲のコメント欄です。この曲は1月23日にリリースされたAphex Twinの新EP「Computer Controlled Acoustic Instruments pt2 EP」に収録されてる曲の別バージョン的な作品です。

このコメント欄にRDJ本人があらわれてファンと“対話”しているのが発見され、WATMMでウォッチされていました。面白いやりとりがいろいろあったんですが、触れていると話がずれるのでまたの機会に回すとして、そんなコメント欄に満を持して登場したのがuser487363530。彼が下のようなコメントを投稿します。

「(略)私はあなたの90年代初期の作品が大好きで、私は90年代初期にあなたと似たような音楽を作っていましたが、その当時はあなたのことを知りませんでした!私も(あなたと同じ)43歳です:) 近いうちにSoundcloudにアップするつもりです。古いDATとカセットテープのホコリをはらわないと!」

この投稿に対してRDJが「素晴らしい作品だ。もっと聴かせて(beautiful stuff, would love to hear more)」と返答しました。読みにくいSoundcloudのコメント欄の中からこのやりとりを発見して最初にBBSに報告したのがTimothy Forwardさん(最初に疑惑を提示したのも彼)。自分もこのやりとりを見て、RDJが褒めてるんだから聴いてみようかとuser487363530の投稿曲を聴きに行ってみたら…これが本当に素晴らしい!その上、初期のAphex Twinの作風とめちゃくちゃ似ている!それなのに作った当時はAFXを聴いたことが無かった?これ絶対RDJ本人だろ!ということで、WATMMの凄腕調査員たちが議論しながら解析をすすめ、上の「8 utopia」の情報が突き止められました。

こうしてuser487363530がRDJであるという疑惑が、WATMMの人々の調査によって確信に変わったところで、イギリスの音楽情報サイトFACT Magazineが登場、WATMMの解析した情報の上澄みをすくい取って「Early Aphex Twin demos appear on Soundcloud」という記事にまとめました(→FACT)。この記事がきっかけとなって情報は一気に拡散していきました。このFACTの記事にしてもそうですが、今回の件をWATMMの人々の貢献に触れずに記事にするのはフェアじゃないと思いますね。この私のブログ記事では、しつこいくらいにWATMMの人々のことを讃えておきたいと思います。このブログ記事に書かれていることは全部WATMMの受け売りだと思ってもらって構いませんし、実際その通りです。

■ Steinvordには間違いなくRDJが関わっている

Rephlexから2012年にEP1枚をリリースしたSteinvordという謎のアーティスト。 今回Soundcloudにアップされた「7 cutting」という曲が、SteinvordがMySpaceで公開していた曲「Untitled」と、音色やメロディなど、数多く共通点があります。

Aphex Twinの変名説、Squarepusherとの共作説などがあったものの、これまでは「音を聴く限りは絶対関わってると思うけど、確実な証拠は何もない」という状態でした。しかし、このSteinvord「Untitled」の初期デモのような「7 cutting」を聴くと、SteinvordにRDJが関わっていることは確実と言ってしまって良いのではないかと思います。あとはSquarepusherの関与があるのかどうか、という点が疑問として残ります。

あともう一つ、別の変名疑惑につながる情報もありました。2014年末ごろにafxafxafxafxafxafxというアカウント名のユーザーがSoundcloudに登場(→Soundcloud)して「Nag Champa Breaks 5」というタイトルの、とても個性的でハイクオリティなドリルンベース的な曲を投稿していました(現在は削除済み)。ファンの間では、このafxafxafxafxafxafxがAphex Twin変名疑惑の案件として今一番ホットな存在で、いつものごとく、何の確実な情報もないままに、本人では?いやフェイクでは?とやっていたわけですが、今回user487363530のアカウントがSoundcloudで発見された際に、afxafxafxafxafxafxが一番乗りでuser487363530のアカウントをフォローしているのが発見されました(すでにフォローが解除されていて、情報の真偽は不明な状態)。この情報だけでは何も解決しませんが、謎はさらに一層深まって、ますます面白くなってきました。

■ ネット上に出回っている「Joyrex Tape」はテープの回転速度が遅い?

Aphex Twinの初期作品をまとめたカセットテープ音源、通称「Joyrex Tape」と呼ばれるものがあって(RDJの家でパーティーが開かれた際に盗まれたものらしい)、これが数年前にネットに流出していました(→YouTube)。今回この「Joyrex Tape」の中から8曲がSoundcloudにアップされて、高音質で聴けるようになったのですが、このSoundcloudで聴けるバージョンはYouTubeなどで聴ける流出音源よりも曲のテンポが早く(ピッチも高い)、恐らくテープから音をリッピングしてYouTubeに上げた人の所有するテープデッキの回転速度が遅かったのでしょう。

■ またサウンド・オブ・ミュージックをサンプリングしている

「1 human rotation」の中盤に、映画「サウンド・オブ・ミュージック」の「ドレミの歌」の場面のジュリー・アンドリュースのセリフがサンプリングされています。1分36秒付近。

これまでにもPolygon Window「Supremacy II」(→YouTube)とCawstic Window「Italic Eyeball」(→YouTube)で「サウンド・オブ・ミュージック」の音声がサンプリングされていました、

■ 日本人アーティストをリミックスしたことを忘れがち

実は、今回アップロードされた100曲を超える“未発表曲”の中に、すでに公式にリリース済みの曲が3曲あります。一つ目は「35 Japan」で、これは日本のグループ、Soft Balletの曲「Sand Lowe (Polygon Window Remix)」として1993年にリリース済みです(→YouTube)。2つ目は「12 Space Beat」で、こっちは日本のグループBUCK-TICKの曲「In the Glitter PT 2 (Aphex mix)」として1994年にリリース済みで、これはAphex Twinのリミックス集「26 Mixes for Cash」にも収録されています。もう一曲は「10 shit smothered」で、これは1997年「Analogue Bubblebath Vol. 3.1」のアナログ盤に収録されています。

曲がすでにリリースされていることを「12 Space Beat」のコメント欄で突っ込まれたuser48736353001は「oh yeah i forgot i released that one」とリプライしています。

■ 一度アップロードしたがすぐに削除した曲が2曲ある

今現在user48736353001のSoundcloudには110曲がアップロードされていますが、アップロードしたすぐ後に削除されてそれっきり消えてしまった曲が2曲存在します。

1曲目は「4 Red Calx」。公開された数時間後に削除され、その曲の回転速度を下げただけのような曲「4 red calx[slo]」に置き換えられました。

もう一曲は「5 Girl Boy Dark Version」。1996年「Richard D. James Album」収録の「Girl/Boy Song」のストリングスを取り出してマイナーに変調したような曲です。

■ Wagon Christリミックス大会の優勝曲が出回ってるものとは全然違う曲だった

2004年にイギリスの楽器情報雑誌Future Musicの企画で行われたWagon Christの楽曲「Sci-Fi Staircase」(→YouTube)のリミックス大会で優勝したTahnaiya Russellさんが実はRDJだった、というのはRDJおもしろ小話として広く語り草になってるエピソードですが、今回その優勝曲と思しき曲「luke vibert spiral staircase [future music competition] [afx remix]」がSoundcloudに投稿されました。これがこれまで優勝曲だと言われてネット上で広まっていた曲と全然別の曲なのです。

上の動画がこれまで優勝曲だとされていた曲です。全く別物です。コンテスト当時に優勝トラックを聴いたLuke Vibertは「Relaxed and sophisticated, but with large balls and huge bass」とコメントしたそうで、確かに「Relaxed and sophisticated」という表現が似合うのは今回新たに出てきたトラックの方のような気がします。そして、以前の曲が原曲の原型を全く留めていないのに対して、今回の曲は、RDJのリミックス作品としては珍しく、しっかり原曲の素材が生かされています。

じゃぁ今までの曲は一体何なの?ということになってきます。RDJがライブで頻繁にプレイしているようなので、彼の作品であることは間違いなさそうですが。(追記 2015/02/05 :この曲について分かったことを過去のブログ記事の中に追記しました →記事

■ 全てのきっかけとなったMP3のメタデータ

今回のSoundcloud祭の出発点、Aphex Twinが自身の公式Soundcloudアカウントに投稿した「diskhat ALL prepared1mixed [snr2mix]」のMP3をダウンロードしてiTunesなどで曲のメタデータ(情報)の、トラック番号のところを確認してみて下さい。ここはこのMP3が何曲収録のアルバムの何曲目なのか分かるところなのですが、このMP3のトラック番号には「1/483」の数字が入っています。483曲!

Soundcloud祭を経験する前にはジョークで入れてるんだろうと思って軽く流してましたが、Soundcloud祭を経験した今となっては、残り372曲が出てくるのを今か今かと思いながら数時間ごとにuser48736353001のSoundcloudのページを再読み込みしてしまいます。

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以上です。もう少しじっくり110曲(+2曲)を聴きこんだら「お気に入りの10曲」を並べた記事でも投稿したいと思います。あと、SYROBONKERS! Interview Traxの時のように、いつ消えるかわからないので、早めのダウンロードをお忘れなく。

追記:2015/2/4

ここ数日間止まっていたアップロードが本日2月4日朝に再開されました(→Soundcloud)。110曲だった曲数が、今この瞬間155曲にまで増加しています。一体何曲まで続くのでしょうか。永遠に続いて欲しい…。

Text : 2015年02月02日 22:07

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