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2010年01月08日 14:30
日本のパラレルロック史 / JAPROCKSAMPLER - ジュリアン・コープ
表紙の写真は、内田裕也が率いるFlower Travellin’ Bandのファーストアルバムのジャケット。
80−90年代を中心にイギリスで活躍したミュージシャン、ジュリアン・コープ(Julian Cope)が、ドイツロックのガイド本「Krautrocksampler」(未訳)に続いて書き上げたのは日本ロックのガイド本。70年代のイギリスのハード・ロックやプログレッシブ・ロックに強く影響を受けた「ニュー・ロック」と呼ばれる日本のロックシーン(→Wikipedia)についておもに書かれています。
なんと、話は黒船来航から始まります。第一章「マッカーサーの子供たち」では、開国から敗戦、経済成長までの日本近代史をジュリアン・コープ先生が紐解いてくれます。この壮大な第一章は、ロックと関係の薄い内容なのですが、よくできたTVゲームの第一面みたいなもので、ここを読むことで残りの300ページとどのように付き合っていけばよいのか、要領が掴める仕組みになっています。つまり、我々日本人が教科書で学んだ日本史から微妙にズレた筋の歴史の流れや、歴史を表現するのに使われる微妙にズレた語彙と接することで感じるこの違和感。これが、イギリス人の著者が日本の外側からの視点で物事を語り、それを日本語に翻訳したものを今読んでいるのだ、と強く意識させるのです。
そして、この本の味わいを特別なものにしているのは、著者ジュリアン・コープがロックへの造詣が深く、日本のロックに熱い情熱を抱いて筆を走らせていることは節々から伝わってくるのですが、彼は本職の物書きではなく、日本の専門家でも無いという事実です。未知の日本ロックのサウンドを、練りに練られた文学的な言葉で表現してくれるのですが、翻訳というひとひねりが入るとはいえ、欧米のロックジャーナリスト的な言い回しは、捏ねくり回され過ぎている上に、非常に主観的で、音が伝わってきにくいのです(読み物としてはとても面白い)。
事実誤認や誤表記は数限りなく、全ページの下部に翻訳者の注釈が大量に追記されています。最初こそ「なんだこりゃ」と呆れてしまうものの、読み進めるうちにベテラン漫才のボケ・ツッコミを読んでいるような心境になり、注釈を楽しみにするような不思議な状態になりました。
■ 青少年のための無人島入門(J.A.CAESAR & THE RADICAL THEATRE MUSIC OF JAPAN)
J・Aシーザーの人生は、1948年、東京から600マイル以上離れたほとんど人の住まない南の島、九州ではじまった(注2)。(略)九州に暮らす人々は、日本中にその「独立独歩の精神」を鳴り響かせていた − 事実、第一次世界大戦前に日本のあまりにも保守的な政権を打倒し、日本で初めて、島々の近代化政策が採り入れられるきっかけをつくったのは、ひとりの九州人の働きだったのである(注3)。しかし九州は不毛なイーストコーストで、シーザーはひしひしと孤立感を覚えていた。
(注2) J・Aシーザーは正確には宮崎県出身。この県の人口は、2008年5月現在で約1137万人。シーザーの生まれた1948年の時点でも「ほとんど人の住まない」というイメージはなかった。またシーザーは幼少期に静岡に引っ越している。以下の記述は大部分、寺山修司がでっち上げたバイオグラフィをもとにしているようだ。
(注3) 明治維新を成し遂げた薩摩藩の西郷隆盛のことだろうか。
事実誤認が多いからといって、この本を投げ捨ててしまうのは違っていて、今となっては日本の中ですら語られることの無い「ニュー・ロック」という70年代のロックシーンを、現代の白日のもとに晒した功績はとても大きいものです。道先案内人がときどき道を間違えたりハッタリをかましすぎるからといっても、未知の大陸への旅は常に胸踊るもので、今のところ、この本に代わる案内人は見当たりません。
数々の間違いを正すため、この本に取り上げられた作品の多くに関わったとされる音楽プロデューサー、折田育造へのインタビューが巻末に付けられています。この本きっかけで、語るべき人たちが「ふざけんな!」と正しい歴史を語り出すのなら、それは素晴らしいことです。
この本で扱われた多くのアーティストの曲はYouTubeで見つけることができます。面白いことに、コメント欄は英語の投稿ばかりです。日本人が内側から否定しようと、すでに海外には別の評価軸で日本のロックを捉えている人が多くいることがよくわかります。
もうひとつの巻末付録であるマーティー・フリードマンと近田春夫の対談の中でも語られていますが、本書で大きく取り上げられているロックンローラー内田裕也の人間としての面白味。山師的な妖しい魅力。これを日本の外から嗅ぎつけたジュリアン・コープのセンスには感服します。昨年も政府の事業仕分けを見学に来ている姿が報道されましたが、あれが自著「俺は最低な奴さ」(→Link)の遠回しなプロモーションだったというのに気づいたときにはうなりました。
Review : 2010年01月08日 14:30
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