2011年08月23日 09:48

R&Bグループを殺したのは誰か?

アメリカのヒットチャートに何が起こっているのか。

Supremes、Temptationsに始まり、Jackson Five、New Edition、Boys II Men、TLC、Destiny's Childなどなど、挙げていけばキリがありません。ここ50年くらいのアメリカのヒットチャートの中心には、常に数多くのR&Bのグループが存在していました。複数の旋律を同時に歌う美しいコーラス、振り付けの決まったダンス、統一感のあるきらびやかな衣装。

セツナ系泣き歌R&B~J-PARTY NONSTOP GIGAMIX~それが、どうしたことなのか、ここ数年のアメリカのヒットチャートにはR&Bグループがほとんど見当たりません(本日のビルボード誌R&Bヒップホップチャートの50位までにグループは一組も無し →Link)。半世紀に渡ってアメリカのヒットチャートを支配し続けてきたR&Bグループという音楽スタイルに、いま何が起こっているのでしょうか

アフリカンアメリカン向けの情報サイト「The Root」の編集者であるAkoto Ofori-Attaさんは、90年代に一世を風靡した女性R&BグループEn Vogueのコンサートに行き、その未だ衰えぬ美しいハーモニーとダンス、金ラメのドレスに湧く大観衆の中で考えます。「誰がR&Bグループを殺したのか?」。その考察が「The Root」に掲載されています。これがなかなか面白いので、箇条書きにして紹介します。

■ Who Killed the R&B Group?(The Root)

And their absence isn't easy to miss. From the beginning, vocal groups have long dominated R&B. Both the Supremes and the Temptations made the R&B group a mainstay of '60s pop music. The tradition continued with the Jackson Five in the '70s; DeBarge, New Edition and Guy in the '80s; and Dru Hill and the record-busting girl group TLC in the '90s. From 1991-2001, every month, you'd see an R&B group hanging out on the Top 10 Billboard R&B/Hip-Hop chart. Jagged Edge, 112 and Destiny's Child continued the popularity of R&B groups into the new millennium. But not for long.
1: 音楽が変わった

今ヒットしているR&Bは、ボーカルが多重録音された抑揚の少ないクラブ/テクノっぽい曲調のものばかりになった。そうなると歌唱力のあるソウルグループは必要とされない。

2: グループを運営するのは大変

グループ内の人間関係の難しさ。グループのリーダーがいずれソロ仕事を始めてしまう(例:Diana Ross、Michael Jackson、El DeBarge、Raphael Saadiq .etc)。R&Bグループの経歴はメンバー脱退によって乱される。

3: 音楽産業の衰退、ヒット曲の"値段"の高騰

音楽ソフトの売上が激減して、メジャーレーベルが契約するアーティストを絞り込むようになった。絞られたアーティストに確実にヒット曲を出させるために、一曲の制作・広告のために莫大な予算(100万ドル以上)を注ぎ込む。グループになると費用はさらに高額なものとなる。「5人グループだと航空券5枚、ホテル5部屋、衣装5着、それぞれのスタイリスト。女性グループだったら髪とメイクアップの担当も必要だ(元Motown重役 Shanti Das)」。

4: ソーシャルメディア(Facebook、Twitter)の登場

ソロのミュージシャンは私生活をツイートすることで自己プロモーションし、ファンを夢中にさせる。Boyz II Menがグループとしてファンとツイッターで交流するよりも、Rihannaがひとりでツイートするほうがファンに強い繋がりをイメージさせることができる。個人単位でやり取りするのに適したFacebookやTwitterはグループには向かない。「社会の自己中心主義がグループ衰退の一因だ。我々は究極の"ひとりよがり"を経験している(音楽評論家 Greg Kot)」。

5: 90年代末の男性グループ乱立

Backstreet Boys、N Sync、98 Degreesなど、90年代末には多くの「ボーイバンド」と呼ばれる男性グループがデビューした。彼らが過剰にメディアに登場したため、リスナーがグループに飽きてしまった。自然な音楽のサイクル。

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以上のような5つの要素をR&Bグループ衰退の原因としてあげています。「R&Bグループを殺したのは誰なのか?」の答えは「誰かが殺したっていうんじゃなくて、グループではやりにくい世の中になったんですよ」といったところでしょうか。上の5つの要因が相互作用しあっているので問題はさらに複雑です。

Facebook LikeボタンなかでもFacebookとTwitterによって音楽の流行が変化する、というのは面白い分析です。もともと日本にR&Bグループは多くないのでアメリカとは事情が違いますが、すでに今の日本のヒットチャートにもアメリカとは違った形でソーシャルメディアの影響が現われているのかもしれません。

それでは、R&Bグループに復活の道はあるのか、という問題。記事を書いたAkoto Ofori-AttaさんはAhmirというインディで活動する男性コーラスグループを例にあげて、R&Bグループの復活を求めるリスナーのコミュニティーがネット上で広がりつつあることに希望を見ています。

自分はAhmirのことを知りませんでしたが、マンハッタンレコードが独占で日本盤を出すなど、力を入れて日本に紹介しているようです(→インタビュー)。

その一方で、音楽評論家Greg KotさんのR&Bグループ復活への見通しは少し違います。「R&Bグループの次のステップは、ひとつのグループに4人のジャスティン・ビーバーだ」。

■ 関連サイト

Text : 2011年08月23日 09:48

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